円高が不動産に与える影響は?金利上昇・株安での投資戦略も解説
円高は不動産価格や市況にさまざまな影響を与えます。円高で不動産価格はどのように動くのか、投資戦略をどのように変更して対応すれば良いのかを知りたいという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、円高が不動産に与える影響や、円高の際の不動産投資法についてお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
・目次
そもそも円高とは?
円高とは、外国の通貨の価値と比較して、円の価値が高くなることをいいます。逆に、円の価値が下がると「円安」という言い方をします。
「1ドル160円」から「1ドル150円」になった場合は、円と1ドルを交換するのに必要な円が10円少なくて済む、つまり円の価値が上がったということで「円高」になります。
逆に、1ドル160円が170円になった場合、1ドルを交換するのに10円多い日本円が必要になるため、円の価値が下がった、つまり「円安」ということになります。
円高になる要因は?
円高になる要因にはさまざまなものがありますが、為替の変動に最も影響を与える要素として、以下の2点が挙げられます。
● 海外と日本との金利差
● 地政学的リスク
海外と日本との金利差
一般的には、金利が高い国の通貨の価値は上がり、金利が低い国の通貨価値は下がるとされています。
米ドルと日本円の例では、近年はアメリカの金利が大きく上昇し、日本の金利は低い状態が継続したため、日米の金利差は大きく広がりました。
その結果、日本円で運用するのではなく、ドルを買って運用し、高い金利を得たいという人が増えたため、ドルを買う動きが強まり、結果「円安ドル高」になったという経緯があります。
地政学的リスク
地政学的リスクとは、特定の地域における政治的・軍事的な緊張が高まることで、国の安定や経済の不透明感が増すリスクのことをいいます。
例えば、中国と台湾の緊張が高まり、日本も巻き込まれる可能性が高まった場合は、日本の国の安全や経済の先行きが不透明になることから、円が売られて円安になる可能性が高くなります。
また、中東など比較的遠い場所で紛争が起こった場合でも、日本への石油の供給が滞ると経済が悪化し、国民生活が非常に不安定になることから、やはり円が売られる可能性があります。
以前は、世界のどこかで紛争が起こった場合は「有事の円買い」といい、世界中のマネーをいったん円に退避させる動きが起こり、円高になる傾向がありました。
しかし、近年は有事が起こっても円が買われず、円高にならない傾向が続いています。
このように、有事の円買いが起きないことや、中国や台湾、北朝鮮、ロシアなど日本を取り巻く地政学リスクが上がっていることから、地政学的には円安になる可能性が高まっているといえます。
円高が不動産に与える影響
円高・円安といった為替の変動は、不動産を取り巻くさまざまな要素にも影響をあたえます。ここでは、円高が不動産価格や市況に与える影響について、5つ紹介します。
資材の高騰が一段落し新築物件が安くなる
円高になると、海外から輸入する建築資材を安く買えるため建築コストが下がり、その結果新築物件の価格が下がる傾向があります。
近年は、木材や鉄の価格の高騰、船舶不足による輸送コンテナコストの高騰、ロシアとウクライナ紛争による輸送燃料の高騰、円安などにより、建築資材が高騰し、新築物件価格も大幅に上昇しました。その結果、新築物件も高騰し、購入しづらくなったという経緯があります。
円高になると、建築資材の価格はすぐに落ち着く可能性は低いものの、円高により建築資材を輸入しやすくなるため、新築物件の価格は円安時よりも安くなると考えられます。
円高は、新築物件の価格を押し下げる要因になると覚えておきましょう。
中古物件が値下がりする場合がある
円高になって新築物件の価格が下がると、今まで新築に手が届かなかった人でも購入できるようになるため、人気が高まる傾向にあります。
新築物件の人気が高まると、逆に中古物件の需要が減るため、需給バランスが崩れて中古物件の価格が大きく下がる場合があります。
円高は中古物件の買い時とも言えますが、中古物件そのものの資産価値は下がることを念頭に置いておきましょう。
外国資本が入りづらくなる
日本の不動産は日本人以外でも購入できる状況です。近年の不動産の高騰は、海外の人が積極的に日本の不動産を購入しているからという背景もあります。
円高になると、海外の人から見ると日本の不動産の価格が上がり、割安感がなくなります。その結果、海外から日本の不動産への資金流入が減り、不動産価格が下がる可能性があります。
ただし、不動産は株や投資信託に比べると、為替の影響がゆっくりと価格に反映されるため、円高が一時的な場合は不動産価格に反映されないケースもあります。
長期的な円高の場合は、外国からの資金流入が減り、その結果不動産価格が下落する可能性があると覚えておきましょう。
景気後退でデフレになる可能性がある
デフレとは、物価が全体的に下がる現象です。円高は金利上昇を伴うことが多く、金利が上がると景気後退を招き、デフレになる場合があります。
デフレで物価が下がると企業の業績が悪化し、給与も下がります。所得が減ると購買力が低下するため、不動産も売れず、より価格が下がるという悪循環になります。
不動産は景気の影響を受けやすいという特徴があります。
円高で金利が上がり、将来景気が悪化しそうな場合は、不動産価格が下がる可能性があると考えておきましょう。
金利が上がるとローン返済の負担が大きくなる
円高で金利が上がると、毎月のローン返済額が多くなるため、不動産の購買意欲が低下します。
日本では長年低金利が続いていたため、借入期間中に適用される金利が変動する「変動金利」で住宅ローンを組んでいる人が多く、金利上昇の影響を受ける世帯が多いと考えられます。
住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査(2023年4月調査)」によると、金利タイプの割合は以下のようになっています。
金利タイプ |
割合 |
変動型 |
72.3 % |
固定期間選択型 |
18.3% |
全期間固定型 |
9.3% |
金利が高くなると、住宅ローンの返済が滞り、不動産を売却したり、競売にかけられたりするケースが増えることも考えられます。そのような状況は、不動産価格の押し下げ要因になります。
円高で不動産価格が三極化する可能性
円高が不動産価格に影響を及ぼす影響は一律ではなく、不動産の種類によって違いがあります。
新築物件は割安感が出るため、価格は下がるものの人気が高まるため、それほど大幅な値下がりはないと考えられます。
中古物件は価格が下がるものの、都心部の中古物件は一定の需要があるため、価格は大きくは下がらないと予想できます。
最も価格が下がる可能性があるのは、都市部以外の中古物件です。
新築の需要が増えることで中古物件の需給バランスが崩れて、値下がりする可能性が高くなります。
円高ではすべての不動産価格が一定額下がりますが、特に割安感が増すのは地方の中古物件と覚えておきましょう。
円高・株安では不動産価格はどうなる?
円高は、輸出企業の業績悪化の原因になることから、株安要因になり、景気に悪影響を与えます。
また、円高では同時に金利が上昇している局面が多いため、景気が冷え込む可能性が高くなります。
このように、円高・株安が進むと景気が悪化する可能性が高まり、その結果個人の購買力が下がることから、不動産価格の下落要因になります。
また、企業の業績が悪化すると、オフィスの空室率が高まり、オフィス市場も冷え込む場合があります。
円高・株安で長期にわたって景気が冷え込む場合は、不動産市場全体の需要が落ち込み、不動産価格が低下する可能性があることを、念頭においておきましょう。
円高は不動産の買い時?売り時?不動産投資の種類ごとに紹介
円高のタイミングは、不動産の買い時でしょうか。それとも、売り時なのでしょうか。円高が不動産価格に与える影響は不動産の種類によって異なるため、それぞれについて紹介します。
マンション経営
マンション経営は、毎月の安定した家賃収入、つまり「インカムゲイン」が魅力です。円高になっても家賃は変わらないため、為替の動きに影響されず、安定した収益を得られます。
円高になった場合、マンションそのものの価格は下がる可能性がありますが、家賃収入は今までのように継続して得られるため、マンションを急いで売る必要はないでしょう。
逆に、マンション経営をこれから始めてみたい人や、保有マンション数を増やしたい人にとっては、円高は「マンションの買い時」といえます。
特に都心部のマンションの人気は安定しており、年々価格が上昇する傾向にあります。
円高など、何らかの理由でマンション価格が下がった場合は、積極的に購入を検討すると良いでしょう。
民泊
民泊とは、戸建て住宅やマンションなどの全部、もしくは一部を活用して、旅行者などに宿泊サービスを提供することをいいます。
民泊では、新築物件ではなく安い中古物件を購入し、リノベーションすることで「物件購入コストを抑えて利益率を上げる」ことが可能です。
円高の状況では、民泊に適した中古物件の価格が大幅に下がる可能性があるため、「民泊用の不動産は、買い時である」と言えます。
ただし、民泊の主要客を外国人客に想定している場合は、円高になると宿泊料として受け取る日本円が減るため、収入が下がる可能性があります。
民泊物件を検討する際は、円高の際のローン返済額(コスト)と民泊収入(利益)を把握し、バランスがとれるような物件を購入するようにしましょう。
海外不動産投資
円高では、海外の不動産をより安い価格で購入できることになるため、「円高は海外不動産の買い時」といえます。
一時的な円高の場合は、早めに購入を検討すると良いでしょう。
一時的ではなく、長期にわたって円高の流れが続く場合は、円高が進む可能性も高くなります。その結果、より割安な価格で海外不動産を購入できる可能性が出てきます。
海外の不動産購入を検討する場合は、円高が一時的か・長期的かをしっかり判断して検討するようにしましょう。
REIT(リート)
REIT(リート)とは、投資家から集めた資金で不動産に投資をし、そこから得られる賃貸料収入や不動産売却益を投資家に還元・配当する投資商品です。
上場しているREITは上場株式と同じように日々値動きがあり、いつでも売買が可能なことから、流動性が高く、換金性にも優れているという特徴があります。
一般的には、円高・円安は不動産価格にすぐ影響を及ぼすわけではありませんが、REITは流動性が高く株式と同じように日々売買されている性質上、円高が価格に反映されやすいという特徴があります。
そのため、一時的な円高で株式市場全体の価格が下がった場合は、REITもつられて下がる可能性があります。
ただ、一時的な円高の場合は価格が回復すると予想できるため、価格が下がったタイミングは「REITの買い時」と言えます。
どの投資にも言えることですが、投資の成功率を高めるために重要なポイントの一つとして「安い時に買って、高い時に売る」ことが挙げられます。
円高が理由でREIT価格が下がった場合は、仕込み時・買い増し時とも言えますので、購入や買い増しを検討すると良いでしょう。
不動産クラウドファンディング
不動産クラウドファンディングとは、個人から少額の資金を募って集め、その資金で不動産投資を行い、賃料や不動産売却益を「分配金」として投資家に分配する投資商品をいいます。
一般的には、不動産投資には何百万・何千万という多額の資金が必要ですが、不動産クラウドファンディングでは、1万円という少額から不動産投資が可能です。
不動産クラウドファンディングでは、賃料と不動産の売却益が配当の原資です。
そのため、円高などで不動産価格が大きく値下がりして売却損が出た場合は、元本割れする可能性があります。
また、予定よりも入居率が低く、予想よりも賃料収入が少なくなった場合は、当初の予定よりも分配金が少なくなったり、分配金が得られない場合もあります。
円高で景気が悪化する可能性がある場合は、これらの2つのリスクがあることを理解して投資するようにしましょう。
特に、運用期間が長いものは、高い利益を見込めるものの、円高・円安の見通しを立てにくいというデメリットがあります。
また、途中解約ができないものもありますので、慎重に検討するようにしましょう。
円高と金利上昇局面における不動産投資の対処法
近年は円安傾向でしたが、円高・金利上昇の流れになった場合、どのような戦略で不動産投資をすべきなのでしょうか。ここでは、円高・金利上昇への不動産投資の対処法をお伝えします。
不動産の売却し利益を確定させる
不動産価格はここ20年ほど継続的に上昇しています。
国土交通省が発表している「不動産価格指数」によると、不動産価格推移は以下のようになっており、年々価格が上昇していることがわかります。
|
令和6年6月 |
令和4年6月 |
令和2年6月 |
住宅総合(季節調整値) |
139.2 |
130.7 |
112.7 |
マンション(区分所有)(季節調整値) |
201.4 |
180.1 |
151.8 |
商業用不動産総合(季節調整値) |
140.8 |
133.0 |
119.1 |
オフィス(季節調整値) |
170.0 |
156.9 |
138.6 |
※2010年の平均を100とする。
マンション(区分所有)の価格は、2010年と比較すると倍になっています。
また、他の不動産も年々価格が上昇していることから、含み益になっている不動産も多いと考えられます。
円高・金利上昇で景気が悪化する場合は、今後は不動産価格がゆるやかに下落することも考えられます。
保有不動産に含み益が出ている場合は、いったん売却して利益を確定させるもひとつの方法といえます。
ローンの繰り上げ返済をする
円高と同時に金利が上昇する場合、ローン返済額が増えるため、不動産投資におけるコストも上がってしまうことになります。
今までは日本政府の「金利を上げない」という方針に日銀も追随していましたが、今後は日銀が独自に金利について判断を下し、段階的に金利を上げる可能性が高くなっています。
変動金利でローンを組んでいた場合は、金利上昇に従ってローン返済額も増えていく可能性があります。
金利が上がると返済期間中の支払利息総額も増え、投資のコストが高くなります。
手元に潤沢なキャッシュがある場合は、ローンの一部・もしくは全部の繰り上げ返済を検討しても良いでしょう。
日本では超低金利が続いていたため、今後金利が再び下がる可能性は低いと考えられます。
今後は「金利の現状維持」もしくは「金利が上がる」の2つの選択肢のみと考えておきましょう。
固定金利に借り換えをする
変動金利でローンを組んでいる場合、固定金利に借り換えするのもひとつの方法です。
変動金利の場合は、市場金利が上がると適用される住宅ローン金利も上がります。
その結果、毎月の返済額が増えて負担が重くなってしまうというデメリットがあります。
固定金利の場合は、市場の金利が上がっても住宅ローンの金利は上がらないため、返済額が上がってしまうリスクをゼロにできます。
固定金利には、住宅ローンの全期間固定金利のものと、借入から一定期間は固定金利で、その後変動金利に移行するものがあります。
全期間固定金利の場合、完済まで金利変動の影響を受けないものの、最も金利が高くなっています。返済期間と金利を比較し、よく検討して借り換えのプランを決めるようにしましょう。
金利上昇で利益が出る資産を組み入れる
金利が上昇すると、「不動産の資産価値が下がる」「ローン返済額が増える」というデメリットがあります。
このような円高局面におけるマイナス要素を緩和させるために「金利上昇で資産価値が上がるものをポートフォリオに組み入れる」こともひとつの選択肢です。
金利上昇の恩恵を受けるものとしては、高い金利下で利益拡大が見込める「銀行や生保などの金融株」があります。
また、配当が高い株に投資し、定期的に多くの配当収入を得るのも良い方法です。
特に、電力株は人々の生活に必須の電力を扱っているため、安定していて大きな値動きが少ないこと、配当が比較的高いことから、長期保有株として人気があります。
不動産の価値低下によるデメリットを減らせるような、株式の保有も検討してみましょう。
新たな不動産購入を検討する
円高・株安は不動産の下落要因となるため、不動産購入を検討する人にとっては「買い時」といえます。
不動産価格は2010年から上昇傾向にあり、なかなか価格が下がらない状況が続いています。
円高で不動産価格が下がった場合は、前向きにチャンスととらえ、積極的に購入を検討すると良いでしょう。
円高は価値ある不動産を購入しやすいタイミング
近年は日本を取り巻く地政学的リスクが上がってきており、「有事の円買い」も起こりづらいことから、「円安」になりやすい状況です。
しかし、その反面、日本では長年続いてきた低金利から脱却し、今後は少しずつ金利が上がる局面に入っているため、以前よりも円高になりやすい市場環境ともいえます。
このように、今は円安要因・円高要因が複雑に絡み合って複雑化していますが、何らかの要因で不動産価格が大きく変動する可能性があります。
日本の不動産は世界中から人気がありますし、急激な円高が継続する可能性は低いと考えられます。
円高・株安で一時的に不動産価格が下落したタイミングは、長い目で見ると買い時といえます。
ただし、今まで説明してきたように、今後は不動産価格が三極化し、不動産の価値が上がるもの、維持できるもの、下がるものに大きく分かれていく可能性があります。
不動産を購入する際は、どのような種類の不動産に投資するのかを慎重に検討するようにしましょう。
まとめ
円高・円安などの為替の動きと不動産には密接な関係があり、円高は不動産価格の下落要因になります。
また、円高の際は同時に株安になることが多くなっています。円高・株安で不景気になりそうな場合は不動産価格がより下落する可能性があるため、注意が必要です。
ただし、円高で不動産価格が下がるタイミングは「不動産の買い時」とも言えます。不動産投資を始める際は、円高局面に不動産を購入することを検討すると良いでしょう。また、円高への対応方法はさまざまなので、自分に合った方法を選ぶようにしましょう。