円安が不動産市場に与える影響とは?
価格動向と投資戦略を徹底解説
円安は日本国内の不動産市場にさまざまな影響を及ぼします。
円安によって不動産価格がどう動くのか、購入や投資のタイミングとして適しているのか気になるという人も多いでしょう。
この記事では、円安が不動産市場に与える影響や、種類ごとの価格動向、円安局面における不動産投資のポイントを詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
・目次
そもそも円安とはどういう状態?
円安とは、日本円の価値が外国の通貨に対して下がることとされています。
ここでは、ドルと円の関係について考えてみましょう。
例えば、1ドル150円から1ドル160円になった場合、同じ1ドル分を購入するのに、より多くの「円」が必要になります。
このような場合は、「円の価値が下がった=円安になった」という言い方をします。
逆に、1ドル160円から150円になった場合は、今までよりも少ない日本円でドルと交換できるため「円の価値が上がった=円高になった」ということになります。
円安になると人々の生活だけでなく、不動産市場や株式市場など、投資全般にも大きな影響を与えます。
不動産の購入を検討している人や、不動産投資に取り組んでいる人は、円安になると不動産市場にはどのような影響があり、それぞれの不動産価格はどう動くのかをあらかじめ理解しておくことが大切です。
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世帯年収 |
公立 |
私立 |
2025年3月まで |
910万円以上 |
なし |
なし |
910万円未満 |
11万8,800円まで |
11万8,800円まで |
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590万円未満 |
39万6,000円まで |
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2025年4月から |
制限なし |
11万8,800円まで |
39万6,000円まで |
2026年4月から |
45万7,000円まで |
円安が不動産に与える影響
円安が進んだ場合、不動産市場を取り巻く環境や不動産価格そのものにも大きな影響を与えます。ここでは、円安が不動産に与える主な影響について5つ解説します。
円安で外国人投資家の日本不動産購入が活発化する
為替レートが変動して円安が進むと、より少ないドルで不動産を購入できるようになるため、日本の不動産は外国人投資家にとって相対的に割安に見えるようになります。
例えば、日本の5,000万円の不動産を購入するのに必要なドルは、1ドル150円の場合は約33,333ドル必要ですが、1ドル160円の円安になった場合は、約31,250ドルで済むため、より割安に購入できることになります。
このように、円安が進むとより少ないドルで日本の不動産を購入できるため、外国人投資家の購入意欲が高まり、それに伴って投資資金が流入し、不動産価格の上昇につながると考えられます。
外国人投資家が好むとされる不動産の種類は、以下の通りです。
●オフィスビル(主に都心部)
●賃貸住宅
●物流施設
●ホテルやリゾート案件
●高級タワーマンション
また、不動産を購入するのは、個人投資家ばかりではありません。
例えば、ロイターの報道によると、モルガンスタンレーは、東京や大阪などの日本の主要都市のオフィスや大都市圏の住宅、物流施設に投資する「日本特化型不動産投資ファンド」の資金調達を進めており、調達額は1,000億円規模になるとされています。
また、モルガンスタンレー以外にも、機関投資家や富裕層を対象とした「日本特化型の不動産投資ファンド」を運用している企業は世界に複数あるため、円安になるとこれらのファンドを通した日本の不動産への投資が活発化することも考えられます。
このように、日本が円安になると、実需・投機両方の資金が流入するため、不動産投資が活発化し、不動産価格の上昇につながると考えられます。
円安によるインバウンド増加で商業施設やホテル需要が高まる
円安が進むと、より少ない予算で旅行できることから「日本はお得な旅行先」となり、インバウンド需要が増加します。
日本政府観光局(JNTO)の「年別 訪日外客数・出国日本人数の推移」によると、以下のように2023年の訪日外国人数は2,500万人を超えており、2022年に比べて約554%の伸びを記録しています。
年 |
訪日外客数 |
2019年 |
約3,188万人 |
2020年 |
約412万人 |
2021年 |
約25万人 |
2022年 |
約383万人 |
2023年 |
約2,507万人 |
このように、近年は円安に伴って多くの外国人が日本を訪れており、インバウンド需要が高まっていることがわかります。
インバウンド需要が増えると、都市部の商業施設やホテルの需要が増加するため、投資が活発化します。
特に、観光地周辺の宿泊施設やショッピングモールなどは空室率が低下して収益性が上がることも考えられるため、不動産価格が上昇しやすくなります。
このようなことから、円安の影響でインバウンド需要が増えると、関連不動産の価格も上昇すると考えられます。
新築物件の価格が上昇する可能性がある
円安が進むと、建築資材の輸入コストが上がるため、新築物件価格の上昇要因となります。
「一般財団 建設物価調査会」によると、2022年以降「建設資材物価指数」は右肩上がりで上昇しており、建設コストは年々高くなっています。
特に、木材や機械設備は為替の変動を受けやすく円安になると価格が上昇するため、新たに資材を調達して建設する「新築物件」の価格が上昇しやすいことを覚えておきましょう。
住宅ローン金利の上昇リスクが高まる
円安が進むと、行きすぎた円安を是正するため金融政策が見直される可能性があるため、金利上昇リスクが高まります。
例えば、日本と米国の金利差が理由で円安になったと考えられる場合は、金利を引き上げて、米国との金利差を縮小する政策がとられる可能性があります。
日本の金利が上がると、住宅ローン金利も上昇します。
住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査(2024年10月)」によると、以下のように「変動型」を選ぶ人が最も多く、全体の約77%を占めています。
金利タイプの種類 |
割合 |
変動型 |
77.4% |
固定期間選択型 |
13.5% |
全期間固定型 |
9.0% |
住宅ローン金利が上がると、変動型の場合は毎月の返済負担が増えるため、返済が滞り不動産を手放す人が出ることも考えられます。
このような場合は、不動産が売却されることになるため、不動産価格の下落要因になる可能性があります。
また、住宅ローン金利が上昇すると、不動産購入意欲そのものが低下することも考えられます。
このような場合も不動産の需要が低下するため、やはり不動産価格の下落につながる可能性があります。
円安による金利上昇は不動産価格の下落リスクにつながるケースが多いため、慎重な判断が必要です。
海外不動産投資のリスクが高まる
円安が進むと、日本人にとっては海外不動産の投資コストが増加します。
日本人に人気の投資先としては、フィリピンやタイ、ハワイ、米国などがありますが、新たな投資は慎重に検討する必要があります。
また、円安になると管理費や維持費・リフォーム費用・税金などの全般的な費用も増加するため、不動産購入費用が上昇するだけでなく、収益性も低下する可能性があります。
このような状況下で現地の不動産市況が悪化したり、規制変更や為替の変動が重なると、当初想定していたリターンが得られなかったり、場合によっては損失が出る可能性もあるため、注意が必要です。
また、不動産を購入した後に円高になった場合は、購入した不動産の日本円換算の価格が下がります。
例えば、1ドル160円の時に約5,000万円で購入した不動産は、1ドル150円になると約4,688万円となるため、売却した場合は大きな損失が出てしまう可能性もあります。
このように、円安のタイミングで海外不動産を購入した場合でも、その後に円高が進むと評価損が出るリスクがあるため、注意が必要です。
円安時の海外不動産投資は慎重に検討するようにしましょう。
円安は不動産の買い時?売り時?投資タイプ別に紹介
円安は不動産市況に影響があることがわかりましたが、円安は不動産の買い時なのでしょうか、それとも売り時なのでしょうか。
ここでは
●マンション経営
●民泊
●海外不動産
●REIT(不動産投資信託)
●不動産クラウドファンディング
の5種類の不動産投資について、それぞれ解説します。
円安時のマンション経営は売り時?買い時?
マンション経営における円安時の対応としては、以下のとおりです。
●新築マンション価格が上がるので、すでにマンションを保有している場合は「売り時」
●新たに中古マンションを買いたい人にとっては「買い時」
●新築マンションの購入は慎重に検討する。
円安が進むと、建築コストが上昇して新築マンション価格も上がり、それに伴って中古マンションの価格も上昇しやすくなります。
そのため、すでにマンションを保有している人は、中古マンション価格が上がった際に売却することで売却益(キャピタルゲイン)を得られる可能性があります。このようなケースでは「売り時」といえます。
一方で、新たに中古マンション購入を検討している人にとっては「買い時」といえます。
中古マンションの価格は、新築マンション価格上昇を受けて、一定のタイムラグの後に上昇する傾向があります。
新築マンションの価格が上がった際に「新築が高いなら、中古でも良い」と買い手がシフトし始めると、中古マンションの需要が徐々に高まり、価格が上がる仕組みです。
そのため、円安で新築マンション価格が上がり始めた際に、先取りで良質な中古マンションを購入できるのであれば、将来の売却益(キャピタルゲイン)が見込めるため、買い時といえます。
中古マンションを購入する場合は、価格が上がり始める前に早めに検討すると良いでしょう。
新規マンションを購入する際は、高値づかみにならないかどうかを慎重に検討し、判断するようにしましょう。
円安で民泊物件は買い時?収益性アップの可能性も
円安が進むとインバウンド需要が増加するため、
●民泊物件は「買い時」
といえます。
特に、東京や大阪などの都市部や京都などの観光地周辺では、宿泊ニーズが高まるため、稼働率のアップや収益性の向上が期待できます。
このように円安は民泊運営にとって好機となるため、条件が合えば「買い時」といえます。
ただし、民泊運営では立地が非常に重要なため、以下のようなポイントを確認しながら物件を選ぶことが大切です。
●寺院やテーマパーク、繁華街など観光スポットの近く
●駅から徒歩10分以内
●空港やターミナル駅からの乗り換えが少ない
●3~4人で快適に泊まれる1LDK~2LDK
●バス・トイレ別
円安が進むとインバウンド需要が高まり、上記のような民泊物件は収益性が高まる可能性があるため、条件を満たした民泊物件は購入を検討する好機といえます。
円安で海外不動産は買い時?リスクと判断ポイント
海外不動産投資をする場合の円安の影響は、以下のとおりです。
●新たな投資は、慎重に検討する。
●すでに不動産を保有している場合は売却を検討する価値がある
円安が進むと海外不動産投資のリスクが高まるため、「買い時」とは言えません。
円安では、海外不動産を購入するために、より多くの資金が必要になります。
また、購入後の管理費や固定資産税、リフォーム費用などの支払いも増えるため、運用コストも上昇し、収益性が低下するリスクもあります。
円安が進んだ場合は、このようにさまざまなリスクがあるため、投資するかどうかを慎重に検討することが大切です。
一方で、すでに海外不動産を保有している場合は、円安になればなるほど円換算の資産価値が増えることになるため、「売り時」といえます。
不動産を売却し、売却益を得ることも検討しましょう。
円安時にREIT(不動産投資信託)は買い時?
REIT(不動産投資信託)とは、多数の投資家から集めた資金をもとに、オフィスビルや商業施設・マンションなどの不動産を購入・運用し、その賃料収入や売却益を投資家に分配する仕組みの投資信託の一種です。
REIT(不動産投資信託)の円安時の対応策としては、以下のとおりです。
●円安が続くと高い分配金利回りが期待できるため「買い時」
●利上げの可能性がある場合は、投資先の選定を慎重に行う
円安になると外国人投資家からの不動産への資金流入が期待できます。そのため、REIT価格の上昇や運用物件の収益率向上が見込まれ、より高い分配金も期待できます。
特に、ホテルや商業不動産などを組み入れて運用しているREITは、インバウンド需要の高まりで、高い分配金を得られる可能性が高まります。
すでにREITを保有している場合は、価格が上昇した際に売却して売却益を得るという選択肢と、そのままREITを保有して高い分配金を受け取るという選択肢があります。
ただし、円安が進んで利上げが行われた場合、不動産全般にとってはマイナス材料になり、REIT価格が一時的に大きく下がる恐れもあるため、注意が必要です。
円安によるメリットと、利上げのリスクをよく比較して投資するかどうかを検討するようにしましょう。
不動産クラウドファンディング
不動産クラウドファンディングとは、1万円という少額から不動産に投資できる、初心者にも人気がある不動産投資方法のひとつです。
不動産クラウドファンディングが円安によって影響を受けるかどうかは、投資先の不動産の種類によって左右されます。
新築マンションに投資する案件の場合、建築コストや物件価格が上昇するため、収益性が悪化する可能性があります。
物件価格の上昇と同じスピードで、収益となる賃料が上がるとは限らないからです。
逆に、ホテルや商業施設など、インバウンド需要が見込めるような投資案件であれば、円安がプラスに働き、より高い利回りを得られる可能性が高まります。
円安時にはインバウンド需要が期待できる案件は「買い時」と言えるでしょう。
不動産クラウドファンディングでは、どのような不動産に投資しているかがポイントになるため、投資先のファンドを慎重に検討するようにしましょう。
円安局面における不動産投資の注意点や対処法
円安局面では、どのようなことに注意して不動産投資を行えばよいのでしょうか。ここでは、注意点や円安への対処法を解説します。
円安下では不動産の高値づかみを避ける
円安によって不動産価格が上昇する局面では「今買わないと、さらに価格が上がってしまうのではないか」と焦り、高値づかみをしてしまう可能性が高まります。
しかし、不動産投資において最も避けたいことは「不動産を割高な価格で購入すること」です。
不動産価格の上昇の背景にあるのが、実需ではなく為替の変動や投機的な資金流入である場合、何かがきっかけで相場が反転したときに不動産価格が下がり、資産価値が減ってしまうリスクがあります。
不動産を購入する際は、価格に見合った価値があるかどうかを冷静に見極めることが大切です。
不動産価格に注目するのではなく、実需に基づいた収益性をしっかり判断するようにしましょう。
収益力の高い物件や立地を重視する
円安局面では、不動産価格の上昇に伴い、市場が過熱しやすい状態となっています。
そのような中、不動産投資に失敗しないためには、「収益性が高い物件かどうか」で投資先を選ぶことが大切です。
想定される家賃収入から、維持費や税金などを差し引いた収益が高いかどうかを判断の目安としましょう。
観光客が見込める地域や人口増加が期待できる再開発エリアなどは、空室リスクが低いため、高い収益性を維持できる可能性が高くなります。
また、物件価格が高く投資リスクが高いと思われるような場合でも、長期的に安定収益が見込める場所であれば、投資対象として検討する価値があります。
円安による金利上昇リスクを想定した資金計画を立てる
円安が長期化すると、海外との金利差を埋めるために日本の金利が引き上げられる可能性が高まります。
特に、日本では長年のマイナス金利が解除されているため、今後はインフレや賃金上昇により、金利が上昇する可能性も高くなっています。
不動産に投資する際は不動産投資ローンを利用するケースが多くなっています。金利が上がれば毎月の返済負担も増加するため、収益が減少する恐れがあります。特に、変動金利型のローンを利用している場合は、金利が上がるとその影響をダイレクトに受けてしまうため、注意が必要です。
今後も金利上昇が続くと考えられる場合は、固定金利型のローンを検討するのもひとつの選択肢です。
また、将来の金利上昇を見込んで、金利が1~2%上昇しても収支が赤字にならないようなキャッシュフロー計画を立てておくことも大切です。
海外不動産投資は慎重に進める
円安時は、同じ物件でもより多くの円が必要になるため、実質的な投資コストが上がります。
また、不動産購入費用だけでなく、現地での不動産の維持費や管理費、税金も上がるため、円安になると収益を圧迫する可能性が高くなります。
一方で、円安時には現地での賃料収入や売却益を円に換算した時の利益は増えるというメリットもあるため、メリット・デメリットを慎重に比較することが大切です。
特に、為替の変動は予想しづらいため、海外不動産投資ではリスク管理が特に重要となります。
現地の不動産事情や法律、税制についても十分に理解し、収益性だけでなく換金性などの出口戦略も含め、慎重に判断するようにしましょう。
不動産に影響を与える外的要因5選とは?
不動産投資では、円安や円高といった為替の動向も含めて、長期的な視野で投資を行うことが大切です。
しかし、個人や企業の努力ではコントロールできない要素が不動産市場に影響を与えることも多く、長期的な見通しを立てるのは難しい側面もあります。
為替変動に影響を及ぼす外的要因は、大きく分けて以下の5つが挙げられます。
外的要因 |
不動産市場に与える主な影響 |
為替相場の変動 |
輸入コストや外国人投資家の動向に影響する |
政策金利・住宅ローン金利の変動 |
借入コストの増減により、住宅購入意欲やローン需要に影響する |
インフレ・デフレ(物価の変動) |
建築費や管理費の上昇・下落に影響し、賃料収入の変動や不動産収益に直結する |
海外経済の動向(米国・中国など) |
米国の利上げや中国経済の減速などが、世界的な資金の流れや投資マネーの行先に影響する |
地政学的リスク(戦争・災害・感染症) |
戦争や災害、パンデミックなどにより、不動産需要や投資資金の動きに影響する |
不動産の購入や投資を検討している場合は、上記の要素が複合的に絡み合いながら不動産価格に影響を与えることを理解しておきましょう。
まとめ
円安は不動産価格の上昇要因になりますが、同時に金利が上昇するリスクも高まるため、為替の動向を注視しながら不動産購入や投資を検討する必要があります。
ただし、為替変動だけでなく、政策金利やインフレ、海外経済などの外的要因も不動産市場に影響を与えるため、目の前の価格や利回りだけでなく、これらのマクロ的な動きにも目を向けることが大切です。
不動産への投資や購入を検討する際は、長期的な視野を持ち、さまざまな要因を考慮しながら慎重に検討するようにしましょう。
資産運用EXPOは、不動産や株式、保険、投資信託、暗号資産など、幅広い投資について一度にまとめて学べる機会となっています。
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伊藤久実
伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。
大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆している。