賢い相続税対策とは?生前贈与・不動産・生命保険でできる節税術を解説

財産を相続する場合、一定額以上になると相続税が発生します。定められた税金を納めるのは義務ではありますが、工夫次第で適切に節税が可能です。そこでこの記事では、生前贈与や不動産などを活用した相続税対策の方法をお伝えしていきます。ルールから逸脱しないためにも、正しい節税術を理解しておくことが大切です。ぜひ参考にしてみてください。

・目次


相続税はいくらかかる?

相続税とは、被相続人(亡くなった人)の財産を受け取る際に、相続人(もしくは受遺者)に課せられる税金です。すべての財産に課せられるわけではなく、ある一定額以上になると発生します。

マイナスの財産があった場合は、プラスの財産から差し引いた額が「相続財産」となります。相続財産が相続税の基礎控除額を上回ると、相続税が発生する仕組みです。相続税が発生するのか、またどれくらいかかるのかは、まずは基礎控除額を確認してみなければわかりません。

相続税の基礎控除額

相続税には基礎控除額があり、この金額を超えなければ相続税は発生しません。

相続税の基礎控除額 = 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

このように、法定相続人の数によって相続税の基礎控除額は異なります。

法定相続人の数

計算

基礎控除額

1人

3,000万円+600万円×1

3,600万円

2人

3,000万円+600万円×2

4,200万円

3人

3,000万円+600万円×3

4,800万円


相続人が3人いる場合、基礎控除額の4,800万円を超えなければ、相続税はかかりません。

法定相続人とは

相続税の基礎控除額を知るには、法定相続人の数を正確に把握しなければなりません。法定相続人とは、亡くなった人(被相続人)の財産を相続する権利がある人のことです。実際に遺産を相続するかどうかは関係ありません。

法定相続人は以下のように定められています。

【必ず法定相続人になる】配偶者

【第一順位】被相続人の子供→亡くなっている場合はその子供(被相続人の孫)

【第二順位】被相続人の父母→亡くなっている場合はその父母(被相続人の祖父母)

【第三順位】被相続人の兄弟姉妹→亡くなっている場合はその子供(被相続人の甥姪)


配偶者は必ず法定相続人となり、第一順位~第三順位のほかの相続人とともに遺産を相続します。

ただし、先の順位の人が1人でもいれば、後順位の人は法定相続人にはなりません。たとえば被相続人に子供がいれば、父母や兄弟は法定相続人になりません。

被相続人の子供が亡くなっている場合でも、相続の権利は孫に代襲されるため、第二順位の父母には相続の権利は発生しません。ちなみに「子供」とは、実子だけでなく養子縁組した子供や認知された非嫡出子(婚外子)も含まれます。

被相続人に子供がいない場合は父母が、被相続人よりも先に父母が亡くなっていた場合は祖父母が法定相続人です。子供がおらず、父母も祖父母もすでに他界している場合のみ、第三順位である兄弟が法定相続人になります。兄弟姉妹も亡くなっている場合は、甥や姪が法定相続人になります。

相続税の算出方法

相続税は、遺産の合計から基礎控除額を引いた金額である課税遺産総額に対して発生します。ただし課税遺産総額そのものに税率をかけて計算するのではなく、各相続人が法定相続分を相続すると仮定した金額に対して、それぞれ税額を算出します。

たとえば、子供2人(長男・長女)がいる4人家族で父親が亡くなったとします。法定相続人は妻と子供2人の計3人となるため、相続税の基礎控除額は「4,800万円」です。

遺産総額が1億だった場合、課税遺産総額は「1億-4,800万円=5,200万円」です。この5,200万円を法定相続分で分けると以下のようになります。

●  妻 → 法定相続分1/2 → 5,200万円×1/2=2,600万円
●  長男 → 法定相続分1/4 → 5,200万円×1/4=1,300万円
●  長女 → 法定相続分1/4 → 5,200万円×1/4=1,300万円

各人が相続した金額に対して、以下の税率をかけて相続税を算出します。

法定相続分に応ずる取得金額

税率

控除額

1000万円以下

10%

0

3000万円以下

15%

50万円

5000万円以下

20%

200万円

1億円以下

30%

700万円

2億円以下

40%

1700万円

3億円以下

45%

2700万円

6億円以下

50%

4200万円

6億円超

55%

7200万円

参考:No.4155 相続税の税率|国税庁

つまり、各人の相続税は以下の通りです。

●  妻 → 2,600万円×15%=390万円-50万円(控除額)=340万円
●  長男 → 1,300万円×15%=195万円―50万円(控除額)=145万円
●  長女 → 1,300万円×15%=195万円―50万円(控除額)=145万円

支払う相続税の総額は630万円となります。ただし相続税の算出は複雑な場合も多いため、よくわからない場合は税理士といった専門家に相談すると安心です。

ご説明した通り、相続税は基礎控除額を超えなければ支払う必要はありません。しかし控除額を超えてしまいそうな場合でも、適切な方法で節税することは可能です。


相続税を抑えるポイントと対策方法

相続税を抑える方法はいくつかありますが、共通するのは「課税遺産総額」を減らすということです。どうしたら課税遺産総額を減らせるのか、ポイントをご紹介していきます。

相続税の対象となる「課税遺産総額」を抑えよう

相続税は、相続財産から基礎控除額を除いた課税遺産総額に対して発生します。つまりこの「課税遺産総額」を減らせれば、相続税を抑えることが可能です。そのためには主に以下の3つの方法があります。

相続財産を減らす

まずは相続財産そのものを減らす方法です。相続財産というのは、相続が発生した時点の財産のことを指すため、相続が発生する前に財産を贈与したり使用したりすると相続財産を減らせます。

相続財産の評価額を下げる

続いて、相続財産の評価額を下げるという方法もあります。たとえば財産が現金であれば、評価額は額面通りです。しかし例えば不動産であれば、現金で保有するよりも評価額が下がることが多いので、相続財産を減らせます。

相続税の基礎控除額を増やす・各種控除を活用する

そして最後に、基礎控除額を増やすという方法が考えられます。基礎控除額が増えれば、課税遺産総額を減らせるため、節税に効果的です。たとえば孫を養子にするといった方法で、法定相続人を増やせば基礎控除額を増やせます。

そのほか、相続税に関する各種控除を適切に利用することで、課税遺産総額や相続税を減らすことが可能です。

相続税対策を一覧表で確認

このように課税遺産総額を減らすためには上記3つの考え方がありますが、具体的にはどのような対策になるのか、代表的な方法を一覧にまとめました。

対策

得られる効果

生前贈与

 ●   暦年贈与

 ●   相続時精算課税制度

 ●   贈与の特例を活用 など

相続財産を減らす

不動産活用

 ●   小規模宅地等の特例

 ●   不動産の購入 など

相続財産の評価額を下げる

保険を活用

 ●   生命保険の非課税枠を活用

 ●   小規模企業共済の活用 など

控除を増やす(活用)

配偶者の特例を活用

 ●   配偶者控除の活用 など

控除を増やす(活用)

そのほかの対策

 ●   法定相続人を増やす

 ●   墓や仏壇の購入

 ●   自宅のリフォーム

 ●   死亡退職金の非課税枠

 ●   寄付 など

控除を増やす

相続財産を減らす など


これらの対策について、さらに詳しくご紹介していきます。


生前贈与で相続税対策をする

相続財産を減らすためには、生前に贈与する方法があります。しかし高額な財産を一度に贈与すると贈与税が発生するため、節税にはなりません。どのように贈与すればいいのかご紹介していきます。

年間110万円以下の暦年贈与

一番手軽にできるのが、この年間110万円以下の暦年贈与かもしれません。年間110万円以下であれば贈与税が発生しないため、毎年コツコツと贈与を行えば相続財産を減らせます。

ただし、相続が発生した時点からさかのぼって7年間のうちに行われた贈与は相続財産とみなされてしまうため、暦年贈与を行うなら早めに開始しましょう。

令和5年までは相続開始3年前からの分が相続財産として加算されていましたが、改正により7年前までさかのぼることになったため、注意が必要です。経過措置として、令和12年末までは令和6年1月1日以降の贈与が対象となります。また、追加された4年分に贈与されたうち、総額100万円までは控除され、相続財産には加算されません。

<暦年贈与の注意点>
毎年同じ時期に同じ額の贈与を繰り返した場合、暦年贈与ではなく定期贈与とみなされ、贈与税の対象となることがあります。定期贈与とは、もともと高額の財産を贈与することが決められており、定期的に贈与することです。

たとえば10年間、12月に110万円を振り込んだ場合、1,100万円の定期贈与だとみなされる可能性があります。定期贈与とみなされないためには、贈与する金額や時期を毎年同じにしないといった工夫が必要です。

相続時精算課税制度を利用する

相続時精算課税制度とは、贈与された財産のうち2,500万円までは贈与税が発生しない制度です。贈与された財産は相続時に相続財産として加算されるため、「結局は税金を先送りにするだけ」「財産を先にもらえるものの節税にはならない」という側面もありました。

しかし制度が改正され、令和6年からは相続時精算課税制度に年間110万円までの基礎控除が加えられました。つまり相続時精算課税制度を利用した場合、年間110万円までであれば相続財産に加算されないということです。

暦年贈与の場合、相続発生時から3~7年前までに行われた110万円の贈与は相続財産として加算されます。一方、相続時精算課税制度であれば加算されないため、相続財産を減らすことが可能です。

ただし一度相続時精算課税制度を利用すると、それ以降、暦年贈与は使えなくなります。またこの制度が利用できるのは、60歳以上の父母または祖父母を持つ、18歳以上の子供または孫のみです。

相続時精算課税制度を利用したい場合は、初めて贈与を受けた年の翌年3月15日までに、税務署に届け出ましょう。

孫への贈与を検討する

暦年贈与の場合、相続開始時から3~7年前の贈与分は相続財産に加算されるとお伝えしましたが、これは「推定相続人」の場合です。推定相続人とは、法定相続人になると推定される人のことなので、基本的に孫は対象ではありません。

被相続人の子供が健在であれば孫は法定相続人ではないため、相続開始3~7年前に110万円の暦年贈与を行っていたとしても、相続財産の対象にはならないということです。

ただし、「遺言書で相続人に指定されている」「相続財産として保険金を受け取った」「祖父母の養子になっており法定相続人である」などの場合は、暦年贈与分も相続財産になります。

孫以外でも、ひ孫や子供の配偶者、任意の第三者などに対して贈与する場合も同じです。多くの人に財産を分けたい場合は検討してみてはいかがでしょうか。

贈与税の特例を利用する

暦年贈与や相続時精算課税制度以外にも、贈与税の特例があります。それらの特例を使うことも可能ですが、適用できる期限が定まっているものも多いです。

住宅取得等資金贈与

自宅の購入や増改築に当たって、直系尊属である父母や祖父母から、18歳以上の子供や孫(直系卑属)に対して贈与があった場合、1,000万円までなら非課税になります。

この住宅取得等資金贈与の非課税特例は、令和8年12月31日までの贈与が対象です。暦年贈与や相続時精算課税制度とも併用できます。ただし贈与を受けた翌年の3月15日までに引渡し等を済ませる必要があるので、注意してください。

教育資金の一括贈与

直系尊属(父母や祖父母)から30歳未満の直系卑属(子や孫)に、教育資金として一括贈与する場合、1,500万円まで非課税になります。この特例は令和8年3月31日までの措置です。

入学金や授業料、給食費など学校等に支払われる費用のほか、学習塾や習い事の費用にも利用できます。ただし習い事に使う場合は最大500万円までで、学校等への支払い分と合わせて最大1,500万円です。

この制度を利用するには、贈与契約を結び、金融機関で専用の口座を開設する必要があります。教育資金以外に利用することはできません。また受贈者が30歳を迎えたり、贈与者が亡くなったりした時点で残金があれば、贈与税や相続税の対象になります。

ちなみに、直系尊属が直系卑属の教育資金をその都度支払う場合(入学金の振り込みなど)は、そもそも贈与税の対象にはなりません。あくまでも一括で贈与したい場合の措置です。

結婚・子育て資金の一括贈与

結婚や子育て資金の一括贈与にも、非課税制度があります。直系尊属(父母、祖父母)から18歳以上50歳未満の直系卑属(子、孫)に対して、結婚や子育て(妊娠、出産、育児など)に必要な資金を1,000万円まで非課税で贈与できます。

結婚に必要な資金の非課税枠は300万円までで、指輪の購入や家具家電の購入など対象にならない費用もあるので注意しましょう。この制度は令和9年3月31日まで利用できます。

この制度を利用する場合も、教育資金の場合と同様、専用の口座を開設しなければなりません。目的以外には使用できず、受贈者が50歳に達したり贈与者が亡くなったりした時点で余っている預金は、贈与税や相続税の対象になります。


不動産を活用した相続税対策

たとえば現金で1億円持っていた場合の相続税評価額は額面通りですが、不動産の場合はたとえ実勢価格(実際に取引される価格)が1億円でも、相続税評価額は1億円より低くなります。

土地は実勢価格の80%程度、建物は60~70%程度と言われています。また、賃貸物件の場合はさらに評価額を下げることが可能です。

<土地の相続税評価額の算出方法>
●  路線価方式 → 国税庁が定めた土地価格である「路線価」に従って定める方法。路線価は公示価格よりも約20%低く評価されています。
●  倍率方式 → 路線価が定められていない地域の場合、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて算出します。

土地を貸している場合は、借地権割合の分だけさらに減額されます。

例)路線価で1億円の評価額・借地権割合が60%の場合 
→ 1億円-(1億円×60%)=4,000万円の評価額

貸家が建っている土地の場合は、以下の方法で算出した割合分、減額されます。

貸家建付地の評価減割合=借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合

例)路線価で1億円の評価額で、借地権割合が60%・空き室なしの場合
→ 1億円-(1億円×60%×30%×100%)=8,200万円の評価額

<家屋の相続税評価額の算出方法>
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額です。賃貸の場合は、それよりも30%ほど評価額が下がります。

貸家の評価減割合=借家権割合30%×賃貸割合

例)評価額が3,000万円の家屋を貸し出している場合(賃貸割合100%)
→ 3,000万円-(3,000万円×30%×100%)=2,100万円の評価額

※借家権割合は地域によって異なります。

アパートやマンションを購入する

上記でご説明したように、資産を不動産にし、さらに貸し出すことで相続税の節税が可能です。

アパートやマンションを所有すると、不動産の評価額を下げられるだけでなく、借入金を相続財産から差し引けるというメリットもあります。借入金はマイナスの財産になるため、プラスの相続財産から差し引くことが可能です。

小規模宅地等の特例を利用する

被相続人と住んでいたり事業に使っていたりした宅地は、小規模宅地等の特例を受けられます。小規模宅地等の特例とは、居住用等の宅地の評価額を大幅に減額する特例です。ただし特例が適用されるのは土地だけで、家屋は対象になりません。

特例を利用すると、住んでいた宅地の場合は330平方メートルまでの部分について、80%減額されます。

例)評価額が1億円の土地の場合(330平方メートル以内)
→ 1億円-(1億円×80%)=2,000万円の評価額

自宅の宅地と事業用の宅地では減額率は異なり、特例を利用するにはさまざまな条件があるので、事前によく確認しましょう。

土地の種類

限度面積

減額割合

 住んでいた土地

 330平方メートル

 80%

 事業をしていた土地

 400平方メートル

 80%

 貸していた土地

 200平方メートル

 50%

特例の対象になるのは、主に以下の人です。

・    被相続人の配偶者
・    被相続人と同居していた親族

被相続人が所有しているものの住んではいない不動産に、生計を一にする親族が住んでおり、その親族が相続する場合も特例の対象となります。

※例えば親が所有する不動産(自宅以外)に、仕送りを受けている子供が住んでおり、そのまま相続するケースなど。

そのほか、同居親族以外でも特例を利用できるケースもあります。特例を利用する条件は少し複雑なので、詳しく知りたい場合は、相続に強い税理士に相談することをおすすめします。


保険を活用した相続税対策

保険を活用して、相続税対策をすることも可能です。だれでもできる対策のほか、自営業の方が活用できる方法もご紹介していきます。

生命保険の非課税枠を利用する

契約者(保険料負担者)と被保険者が被相続人で、受取人が「法定相続人」の場合、死亡保険金に非課税枠があります。

死亡保険金の非課税枠 = 500万円×法定相続人の数

たとえば保険料負担者及び被保険者が父親、受取人が母親という保険契約を結んでいたとして、子供が2人いる場合の非課税枠は、「500万円×3人=1,500万円」です。

法定相続人の中に相続放棄した人がいても、法定相続人の数に加えられます。ただし、相続放棄した人や、法定相続人以外の人が受取人の場合は、非課税枠は適用されません。

また死亡保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産とされ、遺産分割協議や遺留分侵害額請求の対象外です。特定の人に財産を残したい場合は、特に有効な方法だと言えます。

何らかの事情で相続放棄をした場合でも、非課税枠は使えないものの保険金を受け取ることは可能です。また、相続税の納税資金や、不動産を分割できない場合の代償分割用の資金にあてることもできます。生命保険は単に節税だけでなく、さまざまな用途に活用できるというメリットもあります。

小規模企業共済に加入する

小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や個人事業主のための積み立て型退職金制度です。

被保険者の死亡時に、相続人が小規模企業共済から共済金を受け取った場合、その共済金は死亡退職金扱いとなり相続税の対象になります。ただし死亡退職金には、生命保険と同じく「500万円×法定相続人」という非課税枠があるので、相続税対策に有効です。

小規模の会社を経営している人や自営業の人は、利用を検討してみてはいかがでしょうか。


配偶者の特例を使って対策する

できるだけスムーズに財産を移管するために、配偶者にはさまざまな特例があります。その特例を活用すると、相続税を抑えることが可能です。

相続税の配偶者控除を利用する

配偶者の場合、1億6000万円または配偶者の法定相続分のどちらか多い金額までは、相続税が発生しません。

相続税は、取得した金額と割合に応じて各相続人に課税されるため、もし配偶者がすべての遺産を相続した場合、1億6,000万円までなら非課税になります。

非課税になるのは、あくまで「配偶者の相続税」だけです。もし配偶者と子供が遺産を相続し、基礎控除額を超えていたら、子供には相続税が発生します。

節税のために配偶者がすべての財産を相続するのは有効ですが、二次相続のことも考えておきましょう。二次相続とは、この場合、遺産を相続した配偶者が亡くなったときの相続のことです。

相続税の問題が発生するのは、多くの場合両親が亡くなったときでしょう。父親が先に亡くなった場合、それが一次相続となり、次に母親が亡くなったときに二次相続となります。

例えば父親の財産をすべて母親が相続した場合、一次相続は発生しないかもしれません。しかし母親が亡くなったときの二次相続で、多額の相続税が発生する可能性があります。

相続税の配偶者控除は非常に手厚い内容ですが、二次相続で思いがけず高額な相続税が発生しないよう、注意が必要です。

贈与税の配偶者控除を利用する

20年以上連れ添った配偶者には、贈与税の配偶者控除があります。居住用の物件や居住用物件を購入するための資金を贈与する場合、2,000万円まで非課税です。

この制度を利用して配偶者に生前贈与することで、相続財産を減らせます。ただし、不動産を生前に贈与した場合、不動産取得税などのコストが発生するため注意しましょう。

配偶者には相続税の税額控除や小規模宅地等の特例など、ほかにも使える制度がたくさんあります。節税を目的とするなら、ほかの制度を利用したほうが良い場合もあるので、事前にしっかり確認してください。

配偶者居住権を設定すると二次相続対策が可能

配偶者居住権とは、被相続人が所有していた自宅を被相続人の配偶者が相続しなくとも、そのまま住み続けられるという権利です。

法定相続分で分配したとき、配偶者が自宅を相続すると預金といったほかの財産を相続できないことがあります。そうすると生活費に困るかもしれません。かといって自宅を相続しなければ、住処を失う危険もあるでしょう。また先ほどご紹介したように、すべての財産を配偶者が相続した場合、二次相続の不安も発生します。

このような事態に備えて作られたのが、配偶者居住権です。この権利を利用すれば、住みなれた自宅から離れることなく、ほかの相続人とも均等に財産を相続でき、また二次相続にも対処可能です。覚えておくと便利な制度かもしれません。


そのほかの相続税対策

これまでご紹介してきた以外にも、相続税対策の方法があります。ご自身の状況に合わせてぜひ活用してみてください。

法定相続人の数を増やして基礎控除額を増やす

相続税の基礎控除額が増えれば、節税効果は高くなります。基礎控除額を増やす方法は、法定相続人を増やすことです。

たとえば孫を養子縁組すると、法定相続人にできます。基礎控除額が増えるだけでなく、生命保険金の非課税枠も増額できるため、より節税につながるでしょう。

ただし、法定相続人となれる養子の数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。

お墓や仏壇を生前に購入する

被相続人の財産は基本的にすべて相続税の課税対象となりますが、お墓や仏壇といった祭祀に関するものは非課税財産のため、相続税の対象にはなりません。

生前にお墓や仏壇を購入することで、現金という相続財産を減らすことができ、かつ購入したお墓や仏壇は税金が発生しない財産なので、節税につながると言えます。

ただし、過度な装飾や骨董品として価値がある場合には課税対象になることもあるので、注意しましょう。

自宅のリフォームや建物修繕をする

生前に自宅のリフォームや修繕を行えば、現金である相続財産を減らせます。その分だけ相続税も安くなることでしょう。

できるだけ現金を減らしたい場合は、屋根や外壁の補修などを生前に行っておくのがおすすめです。

ただし、増築や家屋の評価が上がるようなリフォーム、修繕を行った場合は、相続税評価額が上がる可能性があるので注意してください。

死亡退職金の非課税枠を活用する

被相続人の死亡後3年以内に遺族が受け取る死亡退職金は「みなし相続財産」となり、相続税が発生します。ただし前述している通り、死亡退職金には非課税枠があるので、全額が対象になるわけではありません。

死亡退職金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数

たとえば配偶者と子供2人が法定相続人だとすると、500万円×3人=1,500万円までは非課税です。非課税枠を超えた分だけが、相続財産に加算されます。

もし対象となる財産が発生した場合は、ぜひ覚えておいてください。生命保険の非課税枠とも併用可能です。

寄付をする

相続税がかなり高額になる場合、寄付をして相続財産を減らすという方法もあります。被相続人が遺言書を作成して、一部(全部)の財産を特定の公益法人や国、地方公共団体に寄付した場合、その遺贈寄付した財産に相続税は発生しません。

たとえば5億円の財産があったとして、2億円を寄付した場合、相続税は残りの3億円に発生します。相続税があまりに高額な場合は、このような手段もあることを覚えておきましょう。

ただしこの特例が認められるのは、特定の団体や組織への寄付です。寄付した先が対象外ということもあるので、事前に専門家によく確認してください。


相続税対策をするときの注意点

事前に相続税の対策をしておくことは、被相続人にとっても遺族にとってもとても大切です。しかしやみくもにすべての対策を行えばよいわけではありません。最後に注意点をご紹介しておきます。

節税のし過ぎに注意

本記事でご紹介してきた相続税対策は、法令の範囲内で行う適切な行為です。しかし間違った対策や過剰な節税を行えば、脱税になってしまう危険も出てきます。

たとえば法令の規則をよく理解しないまま自分勝手に判断して、納めるべき相続税よりも低く見積もってしまうかもしれません。過去には不動産を用いた過度な対策が、脱税だと指摘された例もあります。

相続税対策はあくまでも適切な範囲で、やりすぎないようにしましょう。

二次相続にも留意する

一次相続のことだけを考えて対策すると、二次相続で多額な相続税が発生する可能性もあります。特に相続税や贈与税の配偶者控除を利用する際は、二次相続のこともよく考えて行いましょう。

また二次相続の場合、一次相続よりも法定相続人の数が減るので、基礎控除額も減額されます。それだけでなく、法定相続人の数が減るということは、生命保険や死亡退職金の非課税枠も少なくなるということです。

そのほか、配偶者に認められているさまざまな特例も使えなくなります。一次相続で配偶者に財産を多く分けすぎると、二次相続で困ることもあるかもしれません。それを防ぐためには、配偶者居住権を使うなどして、事前に対策しておきましょう。

現金を減らしすぎない

不動産を利用すると、相続税の節税になることはお伝えしました。しかし手元に現金がなくなりすぎると、相続税の支払いや相続財産の分配に困ることもあるかもしれません。

確かに不動産であれば現金よりも評価額を抑えられますが、それでも不動産を所有していれば相続財産の額は大きくなりがちです。発生した相続税を支払うために現金が足りなくなったり、相続人でうまく分配できなかったりすると、結局不動産を売却する必要が出てくるかもしれません。

特に不動産は、分配方法を巡って相続人が揉めるケースも考えられます。節税も大切ですが、このような争いを避けるためにも、財産を分配しやすい現金にしておくことも考慮しましょう。

遺言書等の相続対策をしておく

相続で大切なのは、相続税対策だけではありません。遺された遺族のためにも、できるだけ準備しておくとよいでしょう。

たとえば、以下のような対策です。

・     財産の整理、目録の作成
・     遺言書の作成
・     法定相続人の確定
・     エンディングノートの作成 など

特に、相続人同士の無駄な争いを避けるためにも、遺言書を作成しておくのがおすすめです。ご自身で作成すると不備があって無効になることもあるので、専門家に相談することも検討してみてください。

複雑な相続は専門家に相談を

相続に関する法令は条件が複雑なものも多く、評価額や相続税を正確に算出することが難しい場合も少なくありません。

ご自身で対応して、知らずに法を犯してしまったり、納める税金がかえって多くなったりなどの不利益を被る危険もあります。特に複雑な事情があったり、相続財産が高額だったりする場合は、税理士といった専門家に相談することをおすすめします。


まとめ

相続税は、一定額以上の財産を保有している人には避けて通れないものです。しかし正しい知識と早めの行動で、合法的に節税することができます。

今回ご紹介したように、「生前贈与を活用する」「不動産や保険を上手に利用する」「各種控除を活用する」などといった対策で、大切な資産を守ってみてはいかがでしょうか。

ただし相続税の制度や算出方法は難しいと感じるものも多いので、悩んだときは専門家に相談すると安心です。まずはご自身の財産や家族構成などを整理して、今できる相続税対策に取り組んでみてください。