【2025年改正】遺族年金はいつまでもらえる?
変更点や受給額・シミュレーションを徹底解説
遺族の生活を支える重要な公的制度である「遺族年金制度」が、2025年に改正され、2028年4月に施行されます。
今回の遺族年金制度の見直しでは、遺族年金の受給期間や金額、条件等が大きく見直されました。
この改正によって、万が一の際の生活費が不十分になる可能性があるため、遺族年金制度改正の内容をよく理解し、対策を講じておくことが大切です。
この記事では、遺族基礎年金と遺族厚生年金の基本的な仕組みから、改正による具体的な変更点、受給額のシミュレーションまで詳しく解説します。万が一に備えて理解すべきポイントをわかりやすく紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
・目次
そもそも遺族年金とは?確認しておきたい基礎知識
遺族年金とは、被保険者(亡くなった方)が生前に加入していた年金制度に基づき、一定の条件を満たす遺族に対して支給される、公的な年金制度です。
遺族年金は残された家族の生活の安定を目的にしており、主に配偶者や子が対象です。
遺族年金は、以下のように「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類に分けられ、亡くなった方の年金の加入状況や子の有無などによって、受け取れる年金の種類や金額が変わります。
|
特徴 |
主な対象者 |
遺族基礎年金 |
国民年金に加入していた人(基本的にすべての国民)が死亡した時に支給される |
子がいる配偶者 |
遺族厚生年金 |
厚生年金保険に加入していた会社員や公務員が死亡した際に支給される |
配偶者 |
遺族年金を受給するためには、「被保険者(亡くなった方)が一定期間以上保険料を納めていたこと」など、一定の条件を満たす必要があります。
このように、遺族年金は、残された家族にとって欠かせない重要な制度です。
万が一に備えるためにも、どの遺族年金を、どれくらいもらえるのかということをあらかじめ確認しておきましょう。
遺族年金はいつまでもらえる?5年間の有期支給に見直し
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
遺族基礎年金は子がいる配偶者、もしくは子にのみ支給される年金です。そして、亡くなった人が厚生年金保険に加入していた場合、遺族基礎年金と合わせて遺族厚生年金も支給されます。
2025年の遺族年金改正では、遺族基礎年金についてはそのままで、「遺族厚生年金」について大幅に見直されました。
遺族厚生年金の受給期間について、改正内容は以下のとおりです。
現行の内容 |
30歳以上か、30歳未満で子がいる場合は、一生涯受け取れる終身支給 |
30歳未満の子がいない妻は遺族厚生年金を5年の有期 |
|
男性(夫)は55歳以上でなければ遺族厚生年金の受給権なし |
|
2025年の改正ポイント (2028年4月施行予定) |
60歳未満は男女ともに原則5年間の有期支給 |
この改正の主な目的は「男女差の解消」です。
現行では、「子がいない60歳未満の人」において、受給者が「夫が亡くなった妻」と「妻が亡くなった夫」では、以下のように大きな差がありました。
年齢 |
夫が亡くなった妻 |
妻が亡くなった夫 |
30歳未満 |
5年間の有期給付 |
なし |
30歳以上55歳未満 |
無期限の給付(亡くなるまで) |
なし |
55歳以上60歳未満 |
無期限の給付(亡くなるまで) |
なし |
60歳以上 |
無期限の給付(亡くなるまで) |
無期限の給付(亡くなるまで) |
この仕組みを以下のように男女で統一することで、男女差が解消する意図があります。
|
妻 |
夫 |
男女ともに60歳未満 |
5年の有期給付+配慮措置 |
5年の有期給付+配慮措置 |
男女ともに60歳以上 |
無期限の給付(亡くなるまで) |
無期限の給付(亡くなるまで) |
遺族年金がいつまでもらえるかは、残された家族にとって重要な問題です。
遺族年金をもらえる期間が長ければ長いほど、受給できる遺族年金額が多くなり、その結果遺族の生活が安定します。
逆に、受給期間が短いと遺族年金の受け取り総額が少なくなり、生活不安が高まります。
今回の遺族年金改正では、遺族厚生年金の受給額が大幅に下がる可能性があるため、生活費の不足分をどのように補うのかを夫婦でよく相談し、場合によっては保険加入などの対策を行うことが大切です。
2025年の遺族年金改正の内容が施行されるのは、2028年4月です。
2008年4月以前と以降では、遺族年金の仕組みが大きく変わることになるため、それまでに対策を行うようにしましょう。
それでは、遺族年金制度改正の施行前と施行後の受給期間について、詳しく解説します。
遺族基礎年金はいつまでもらえる?受け取れる期間
遺族基礎年金は、遺族年金の1階部分と考えることができ、「子がいる配偶者」もしくは「子」が受け取れます。
「子」 に該当するのは、以下です。
- 18歳に到達した年度の、3月31日を経過していない人
- 障害等級1級または2級の、20歳未満の人
遺族基礎年金を受け取れる期間は今回見直されなかったため、2028年4月前と後で、変更はありません。
遺族基礎年金は、子がいる人、もしくは子のみが受け取れると覚えておきましょう。
遺族厚生年金はいつまでもらえる?受け取れるのは基本的に5年間
遺族厚生年金を受給できる期間は、2025年の遺族年金制度改正によって大きく内容が変わりました。
現行の制度では、30歳以上の妻、もしくは子がいる30歳未満の妻の場合、遺族厚生年金を終身受給できました。
しかし、2028年4月の施行以降は、原則的に5年間の有期支給になります。(子がいる場合は、子が18歳になったタイミングから5年間)
「令和4年 就業構造基本調査 総務省統計」によると、女性の非正規雇用率の高さは47.8%となっており、残された妻が十分な収入を得ることは簡単ではありません。
そのため、生活再建を強化する目的で、収入が一定額以下の人が「継続給付」を受給できる制度が創設されました。
40歳~65歳までの人は、遺族厚生年金を受給していなくても単独で「中高齢寡婦加算(段階的に廃止)」を受け取れることとなっています。
しかし、トータルでの受給額が少なくなるため、やはり残された人の生活が厳しくなると考えられます。
2028年4月以降は遺族年金の支給額が少なくなることから、万が一に備えて保険などに加入するなど、個々で対策を考えていくことが大切です。
2025年の遺族年金制度改正における7つの変更点
2025年の遺族厚生年金の見直しでは、「5年間の有期給付への変更」の他にも、いくつか変更された点があります。
ここでは、変更内容を詳しく解説します。
5年間の有期給付へ変更
今まで説明してきたように、今回の遺族厚生年金の変更で、最も大きな影響があるとされているのが「現行制度では終身給付である老齢厚生年金が、5年の有期給付になる」という点です。
今までよりも支給される額が大幅に少なくなってしまうため、万が一の際に備えて何らかの対策を講じておく必要があります。
年間支給額の増額
現行の遺族厚生年金の支給額は「夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の四分の三」が基準ですが、改正後はこれに「有期給付加算」が加えられ、年額で約30%増加します。
これにより、5年の有期給付期間中は、年間支給額は現在よりも手厚くなります。
死亡時分割の創設
死亡時分割制度は、2025年の遺族年金の改正により新設された制度で、2028年4月から施行される見通しです。
この制度は、配偶者(夫または妻)が死亡した際、亡くなった人との婚姻期間分の厚生年金記録(保険料の納付実績)を夫婦で均等に2分割し、残された配偶者の老齢厚生年金に65歳以降に加算するという仕組みです。
この加算により、残された人の老後の生活保障が強化されます。
子がいる場合の加算額拡充
子がいる場合「遺族基礎年金における子の加算額」が増額されます。
現行では、子の加算額は1人目・2人目は年額23万9300円ですが、改正後は年額28万円に増額されます。
また、現行の制度では、3人目以降の加算額は年額約7万9,800円ですが、改正後は3人目以降も同額の年額28万円を受け取れます。
この増額については、施行前に遺族基礎年金を受給している人も対象になります。
中高齢寡婦加算の段階的な廃止
中高齢寡婦加算は、遺族厚生年金の受給権者である、「子がいない妻・もしくは子が18歳を超えた妻」が、40歳から65歳までの期間の生活費を補うために支給される加算です。
この中高齢寡婦加算は、子育てが終わった後の生活再建や、老齢厚生年金(65歳開始)までのつなぎ支援として行われています。支給される妻の主な条件は、以下のとおりです。
- 夫の死亡時に40歳以上65歳未満であること
- 生計を同じくする子がいないこと
- 子がある場合は、子の遺族基礎年金の受給権が消滅したとき(子が18歳になったとき)に40歳以上65歳未満であること
現行制度の加算額は、年額約62万円です。
子がいる人は、子が18歳になったときに40歳以上であれば受け取り開始できます。子がいない場合は、夫が亡くなった際に40歳以上65歳未満であれば受け取れます。
しかし、2025年の遺族年金改正により、この中高齢寡婦加算が2028年4月から25年かけて段階的に廃止されることになりました。(25年後には完全廃止)
具体的には、2028年4月より、新規に発生した中高齢寡婦加算額を以下のように毎年26分の1ずつ減らし、最終的に2053年には0円になる予定です。
|
|
2028年度(N年度) |
62万円(満額) |
2038年度(N+10年度) |
62万円×15/26=約35.3万円 |
2048年度(N+20年度) |
62万円×5/26=約11.9万円 |
2053年度(N+25年度) |
0円 |
(Nは施行年度)
例えば、2038年に中高齢寡婦加算の受給権が発生した場合、年額約35.3万円を65歳になるまで受け取れることになります。
このように、2025年の遺族年金制度改正では、遺族厚生年金が5年の有期給付になることに加え、中高齢寡婦加算の段階的な減額も、残された妻にとってはマイナス要因といえます。
ただし、2028年4月の施行後は、遺族厚生年金の5年間の受給期間が終わった後も、引き続き中高齢寡婦加算を単独で受け取ることが可能となっています。
遺族厚生年金の受給ができない期間も、中高齢寡婦加算は受け取れることを覚えておきましょう。
年収850万円の収入基準の撤廃
遺族厚生年金を受給するには、残された遺族が「前年度の年収が850万円未満であること」もしくは、「前年度の所得が655.5万円未満であること」という条件を満たす必要があります。
しかし、遺族年金制度の改正後はこれらの要件が撤廃され、残された配偶者の収入額に関わらず、遺族厚生年金を受け取れるようになります。
継続給付(配慮措置)による実質的な保障延長
2025年の遺族年金改正により、遺族厚生年金は原則として5年間の有期給付になります。
しかし受給期間終了後も、障害状態にある人(障害年金受給権者)や収入が十分にない人は、引き続き増額された老齢厚生年金を受け取れる「継続給付」の仕組みが整えられました。
単身で就労収入が年額122万円以下の場合、継続給付として遺族厚生年金が全額支給されます。
また、収入が増えるにしたがって遺族厚生年金の額が調整され、月額でおよそ20万円~30万円を超えると、支給が停止される仕組みです。(ただし、支給停止の具体額はそれぞれのケースによります。)
このように、有期給付後の生活再建が厳しい人に対しては、特別な支援が講じられることとなっています。
2025年の遺族年金制度改正におけるメリットデメリット
2025年の遺族年金制度改正では、さまざまな見直しが行われました。ここでは、メリットデメリットをまとめましたので紹介します。
遺族年金制度直しにおけるメリット
2025年の遺族年金の見直しにおけるメリットは、以下の3点です。
- 男性(夫)が遺族厚生年金を受給しやすくなる
- 有期給付加算や、死亡時分割により短期・長期の経済支援が強化される
- 収入要件の撤廃で、年収850万円以上の遺族も受給可能になる
現行の制度では、男性は55歳以上で死別した場合のみ、遺族厚生年金を給付されていました。
今回の改正で、今まで対象外だった男性も女性と同じ条件で給付を受けられるようになります。
また、年収要件も撤廃されるため、残された配偶者の年収が850万円を超えていても、遺族厚生年金を受給できるようになります。
遺族年金制度見直しにおけるデメリット
2025年の遺族年金制度見直しのデメリットは、以下の3点です。
- 遺族厚生年金が5年の有期給付になるため、受給額が大幅に減る
- 中高齢寡婦加算の段階的な廃止で、40歳~65歳の妻の受給額が減る
- 継続給付制度の基準が厳しい
今回の改正では、子がいない、もしくは子が18歳を迎えた後の遺族厚生年金が5年の有期給付になるため、受給額が大幅に減ってしまうことがデメリットです。
また、将来的には中高齢寡婦加算がゼロになるため、残された妻の生活が苦しくなると言わざるを得ません。
継続給付制度も創設されましたが、基準が厳しいため、働きながら遺族厚生年金を満額受給するのは難しいといえます。
将来に備え、保険に加入するなど何らかの対策が必要と考えられます。
遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給額シミュレーション
妻が35歳の時に夫が亡くなり(婚姻期間は10年)、10歳の子がいるという想定で、「現行の制度が続くと仮定した場合」と「2028年4月の施行後に夫が亡くなった場合」の2パターンでシミュレーションを行うと、結果は以下のようになりました。
|
現行制度継続と仮定 |
2028年4月の施行後 |
遺族基礎年金 |
約856万円 |
約888万円 |
(子がいる期間の)遺族厚生年金 |
約296万円 |
約296万円 |
(子が18歳を迎えた後の)遺族厚生年金 |
約814万円 |
約240万円 |
中高齢寡婦加算 |
1364万円 |
約770万円 |
死亡時分割 |
0円 |
約208万円 |
合計額 |
約3,330万円 |
約2,402万円 |
前提条件は、以下のとおりです。
- 夫(亡くなった人):厚生年金加入者(国民年金含む)、加入期間20年
- 夫の年金加入状況:標準報酬月額30万円、国民年金保険料納付要件(3分の2以上納付)を満たす
- 妻:35歳 パートで年収約200万円
- 子:10歳(18歳まで遺族基礎年金の対象)
また、現行の制度と遺族年金改正後における条件の違いは、以下となっています。
項目 |
現行の制度 |
2028年4月以降 |
子1人の加算額 |
年額約23万9,300円 |
年額28万円 |
有期給付加算 |
なし |
遺族厚生年金1.3倍 |
継続給付 |
なし(終身給付のため) |
年額収入122万円超で段階的に停止 |
死亡時分割 |
なし(終身給付のため) |
婚姻期間の2分の1の額を老齢厚生年金に上乗せ(終身) |
遺族基礎年金と遺族厚生年金の仕組みは、以下のようになっています。
それでは、2つのパターンについてそれぞれ詳しく解説します。
現行制度の場合の遺族年金受給額のシミュレーション
ここでは、遺族年金改正が行われず、現行制度のまま継続した場合のシミュレーションを紹介します。
遺族年金を計算する際は、以下のようにそれぞれの期間で条件が違うため、分けて計算します。
- 子がいる期間の受給額
- 子がいない(子が18歳を超えた)期間の受給額
- 65歳以降の受給額
それぞれの期間に受給できる遺族年金額をみていきましょう。
1.子がいる期間の遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給額
18歳までの子がいる期間の遺族基礎年金は、以下のように計算します。(2025年度の額が継続すると仮定します)
【遺族基礎年金】
- 年額83万1,700円+年額23万9,300円(子ども一人分)=年額107万1,000円
- 受給期間:8年(子が18歳になる年度末まで)
遺族基礎年金の受給額は、107万1,000円×8年=856万8,000円となり約856万円となります。
また、18歳までの子がいる期間の「遺族厚生年金」は、以下のように計算します。
【子がいる期間の遺族厚生年金】
- 年額約37万円と仮定(死亡者の厚生年金報酬比例部分の4分の3)
- 受給期間:8年(子が18歳になる年度末まで)
- 総額:約37万円×8年=約296万円
遺族厚生年金の計算に使う報酬比例部分の計算は「報酬比例部分=平均標準報酬月額×5.481/1000×加入月数(被保険者の加入期間が25年未満の場合は、25年(300か月)で計算する)」で求められます。
遺族厚生年金では、子の有無は受給額に影響せず、死亡者の「厚生年金保険の加入期間と標準報酬月額」のみに基づいて支給されます。
この結果から、子がいる期間に受け取れる遺族年金は、遺族基礎年金(約856万円)+遺族厚生年金(約296万円)=約1,152万円 となります。
2.18歳までの子がいない期間の遺族厚生年金の受給額
子が18歳を超えてしまうと「子がいない」という条件で遺族年金を計算することになります。
現行の制度では、残された配偶者の老齢年金が始まる期間まで(65歳まで)遺族厚生年金を継続して受け取れる仕組みです。
計算方法は、以下のとおりです。
【子がいない期間の遺族厚生年金】
- 年額約37 万円
- 受給期間:22年(妻が43歳~65歳まで)
- 総額:約37万円×22年=約814万円
また、40歳~65歳の間で、遺族基礎年金を受給していない(子がいない、もしくは子が18歳を超えている)期間は、中高齢寡婦加算も65歳まで受給できます。(年収850万円未満)
2025年度の中高齢寡婦加算は年額62万3,800円のため、約62万円とします。この額が22年間継続すると仮定すると、受給額は以下のようになります。
3.65歳以降の遺族厚生年金の受給額
現行の制度では、妻が65歳を超えると遺族年金の支給はストップするため、受給額は0円になります。
受け取れる遺族基礎年金・遺族厚生年金の合計額
計算結果から、受け取れる遺族基礎年金と遺族厚生年金の合計額は、以下のように計算できます。
- 遺族基礎年金:約856万円
- 子がいる間の遺族厚生年金:約296万円
- 子がいない間の遺族厚生年金:約814万円
- 中高齢寡婦加算:約1,364万円
- 合計 約3,330万円
このように、受給できる遺族年金の合計は、約3,330万円となります。
遺族年金改正施行後(2028年4月以降)のシミュレーション
次に、2028年4月に遺族年金改正が施行された後に、夫が亡くなった場合のシミュレーションを紹介します。
1.子がいる期間の遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給額
18歳までの子がいる期間は、現行制度と同様に遺族基礎年金・遺族厚生年金共に受け取れます。
遺族年金改正後は、子1人当たりの加算額は28万円に増額され、3人目も1人目・2人目と同額が受け取れるようになります。
|
現行制度 |
2028年4月施行後 |
1人目 |
年額約23万9,300円 |
年額約28万円 |
2人目 |
年額約23万9,300円 |
年額約28万円 |
3人目 |
年額約7万9,800円 |
年額約28万円 |
2028年4月の施行後は、子の加算額を増やして以下のように計算します。
【遺族基礎年金】
- 年額83万1,700円(2025年度)+年額約28万円(子ども一人分)=年額約111万円
- 受給期間:8年(子が18歳になる年度末まで)
- 総額:111万円×8年=約888万円
また、18歳までの子がいる期間の「遺族厚生年金」は、現行の制度と変わらず、以下のように計算します。
【遺族厚生年金】
- 年額約37万円
- 受給期間:8年(子が18歳になる年度末まで)
- 総額:37万円×8年=約296万円
この結果から、子がいる期間に受け取れる遺族年金は、遺族基礎年金(約888万円)+遺族厚生年金(約296万円)=約1,184万円 となります。
2.子が18歳を超えた期間の遺族厚生年金の受給額
子が18歳を超えた時の年齢が、「40歳以上65歳未満」だった場合、そのタイミングで「遺族厚生年金の5年有期給付」がスタートします。
遺族年金改正後は、「有期給付加算」が加えられ、給付額が約30%増加するため、1.3倍の額を受け取れます。
計算方法は、以下のとおりです。
【遺族厚生年金】
- 年額約48万円(約37万円×1.3)
- 受給期間:5年(妻が43歳~52歳まで)
- 総額:約48万円×5年=約240万円
また、子が18歳を超えたタイミングで45歳~65歳だった場合、中高齢寡婦加算を受け取れます。ただし、2028年4月の施行後は、中高齢寡婦加算は段階的に縮小される予定です。
ここでは、2038年度に妻が43歳になったと仮定し、中高齢寡婦加算を年額約35万円として計算します。
【中高齢寡婦加算】
- 受給期間:43歳~65歳まで
- 年額約35万円×22年=約770万円
3.65歳以降の遺族厚生年金の受給額
2028年4月の遺族年金改正後は、「死亡時分割」として、婚姻期間の2分の1の厚生年金記録分(保険料の納付実績分)を夫婦で均等に2分割し、残された配偶者の65歳以降の老齢厚生年金に加算されます。
この死亡時分割は、残された人が亡くなるまで給付される「終身給付」です。
ここでは妻が85歳まで生きると仮定し、65歳から85歳までの20年間給付される仮定で計算します。
【死亡時分割】
- 夫の平均標準報酬額が約30万円
- 婚姻期間が10年(120か月)なので、その半分の60か月で計算
- 年額の老齢厚生年金上乗せ分の計算式は、30万円×5.769/1000×60=年額10.4万円
- 10.4万円×20年=208万円
死亡時分割で受け取れる金額は、約208万円となります。
受け取れる遺族基礎年金・遺族厚生年金の合計額
計算結果から、受け取れる遺族基礎年金と遺族厚生年金・中高齢寡婦加算・死亡時分割の合計額は、以下のようになります。
- 【遺族基礎年金】約888万円
- 【子がいる期間の遺族厚生年金】約296万円
- 【子がいない期間の遺族厚生年金】約240万円
- 【中高齢寡婦加算】約770万円
- 【65歳以上に受け取れる死亡時分割】約208万円
これらを合計すると、遺族年金として受給できる金額は約2,402万円となります。
シミュレーションの結果、現行制度の場合の受給額は約3,330万円、遺族年金制度改正後では2,402万円となりました。
これらのシミュレーションでわかることは、現行の制度に比べて、遺族年金制度改正後の受給額が大幅に少なくなるという点です。
特に、子が18歳を超えてから65歳までの受給額がより少なくなるため、万が一の際の生活を安定させるために、何らかの対策が必要であると言えます。
また、遺族年金の複雑な計算や条件は個別ケースで異なる場合もあるため、疑問や不安がある場合は、日本年金機構や専門家への相談をおすすめします。
遺族年金だけでは不安な場合の対策法を紹介
遺族年金は大切な生活保障のために欠かせない制度ですが、遺族年金だけで遺族の生活をすべてカバーできるとは限りません。
万が一の際の生活のためにできる対策法を2つ紹介します。
保険に加入してリスクに備える
死亡保険や収入保障保険など、死亡保険金を受け取れる生命保険への加入を検討しましょう。
月々の保険料は発生しますが、このような保険に加入しておくことで、万が一の時にまとまった死亡保険金を受け取れます。
遺族年金ではカバーできない生活費の不足分や子の教育資金、老後資金の不足分を補う手段として非常に有効です。
新NISAなどで早期の資産形成に努める
遺族年金を補完する目的で、日ごろから資産形成を行うことも大切です。
新NISAであれば、投資で得た利益は一定額まで非課税になるため、長期の資産運用に適しています。
若いうちからコツコツと資産を積み上げていくことで、さまざまな将来のリスクに柔軟に対応できます。
遺族年金に関してよくあるQ&A
遺族年金について、よくあるQ&Aを2つ紹介します。
遺族年金と死亡保険金は両方もらえますか?
遺族年金は公的な年金制度に基づく給付で、死亡保険金は民間の生命保険会社から支払われるものなので、両方もらうことが可能です。
この2つを併用することで、遺族の生活保障をより充実させることができます。
年金受給中に配偶者が死亡した時はどうなりますか?
遺族年金は「亡くなった被保険者によって生計を維持されていた遺族」に対して支給される公的年金です。
そのため、遺族自身が死亡した場合、その人に対する遺族年金の支給は停止され、次の人に受け継がれることはありません。
ただし、配偶者の死亡時に18歳未満の子(もしくは障害等級1・2級の20歳未満の子)がいる場合は、子に受給権が発生する場合があります。
まとめ
2025年の遺族年金制度改正により、2028年4月の施行後は遺族厚生年金の受給期間が原則5年となり、受給額が大幅に少なくなります。また、中高齢寡婦加算も段階的に減らされ、最終的に廃止されるため、やはり受給額が少なくなります。
今回の改正により、遺族の生活が不安定になることが想定されるため、保険や資産形成などの準備を早めに進めておくことが安心につながります。
万が一の際の受給額を大まかに把握し、不足額をどのように補完するかどうかを夫婦でよく話し合うようにしましょう。
伊藤久実
伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。
大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆している。