退職金の賢い運用方法とは?注意点や失敗するケースも紹介
退職金というまとまった金額を得て、どのように使うべきか悩む人は多いのではないでしょうか。運用という選択肢を考えている人もいるかもしれません。しかし退職金は老後を過ごすための大切な資金です。安易に運用して失敗しないよう、本記事では退職金の賢い運用方法や、運用するうえでの注意点、失敗しがちなケースまでご紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
・目次
退職金を運用したほうがいい理由
退職金で資産運用をすべきかどうか、よくわからないという人もいるのではないでしょうか。貯蓄して少しずつ使おうと考えている人も多いでしょう。正解があるわけではありませんが、退職金を運用することで老後の生活資金に余裕が生まれ、不安を軽減できるかもしれません。その理由を解説していきます。
平均寿命が延びているため退職後の人生が長い
厚生労働省が発表した「令和5年簡易生命表の概況」によると、男性の平均寿命は81.09歳、女性の場合は87.14歳です。日本の平均寿命は延伸の傾向があり、世界的に見ても長寿国家と言えます。
また平均寿命は早世した人も含まれている数値ですが、多くの人が退職金を受け取るであろう60歳時点での平均余命を見ると、さらに長いことがわかります。
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男性 |
女性 |
平均寿命 |
81.09歳
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87.14歳 |
60歳時点での平均余命 |
23.68年 =83.68歳 |
28.91年 =88.91年 |
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世帯年収 |
公立 |
私立 |
2025年3月まで |
910万円以上 |
なし |
なし |
910万円未満 |
11万8,800円まで |
11万8,800円まで |
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590万円未満 |
39万6,000円まで |
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2025年4月から |
制限なし |
11万8,800円まで |
39万6,000円まで |
2026年4月から |
45万7,000円まで |
退職後の余命は、およそ20~30年です。退職後の人生は決して短くないため、備えが必要だと言えます。
退職金や年金だけでは生活が厳しいことも
次に、退職後の収入について考えてみましょう。退職後の収入といえば年金です。厚生労働省が発表した令和5年度の厚生年金・国民年金の平均受取額を確認してみましょう。
【令和5年度厚生年金・国民年金の平均受取額(月)】
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厚生年金 |
国民年金 |
全体の平均 |
146,429円 |
57,584円 |
男性の平均 |
166,606円 |
59,965円 |
女性の平均 |
107,200円 |
55,777円 |
参照:厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」参考資料2、3、4より
厚生年金には、国民年金の基礎年金額も含まれています。厚生年金分と国民年金分を足した額がもらえるわけではないので注意しましょう。厚生年金に加入していなかった場合は、国民年金分だけになります。
仮に夫が給与所得者(厚生年金)、妻が専業主婦(国民年金)だった場合、2人でもらえる年金額の平均は、「222,383円」です。
※年金からは支給額に応じて社会保険料、所得税、住民税などが引かれることがあります。
対して、月々に必要な生活費はどうでしょうか。総務省統計局が発表している「2023年(令和5年)家計の概要」によると、65歳以上で夫婦のみの無職世帯における消費支出は「250,959円」で、単身世帯の場合は「145,430円」です。
参考: 家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)結果の概要 P.17
もちろん、生活費は個々人のライフスタイルによって異なりますが、仮に平均通りの年金額、支出額だった場合、月々の収支は以下のようになります。
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夫婦2人世帯 (厚生年金+国民年金の場合) |
単身世帯 |
収入(年金のみと仮定) |
222,383円 |
146,429円 |
支出 |
250,959円 |
145,430円 |
収支 |
▲28,576円 |
999円 |
夫婦2人世帯の場合、赤字額はひと月で約3万円、1年間で36万円です。65歳から余命が25年あったとしたら、赤字の総額は900万円にもなります。さらに旅行や趣味、子供や孫への援助など、ゆとりある生活を送りたいならもっと多くの資金が必要です。
生命保険文化センターが行った調査によると、老後にゆとりある生活を送るために必要な金額の平均は、37.9万円/月でした。
参照:生命保険文化センター「2022(令和4年)年度生活保障に関する調査」p.115
余裕のある生活を送った場合、月々の赤字は約15万円、年間だと180万円、25年間だと4,500万円にもなります。
年金のほかに収入がない場合、この金額を退職金で賄わなければなりません。それでは退職金はいったいどれくらいもらえるのでしょうか。当然、企業規模や業種、勤続年数などによって大きく異なりますが、参考となる金額は以下の通りです。
<高校や大学を卒業してから同じ会社で働き続けた場合の定年退職金>
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中小企業 |
大企業 |
高校卒 |
9,741,000円 |
20,199,000円 |
大学卒 |
11,495,000円 |
21,396,000円 |
参照:東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」図表8-1
大企業と中小企業では、2倍近くの差があります。また状況に応じて退職金の金額は異なるので、人によっては退職金と年金だけで生活するのは難しい場合もあるでしょう。特に余裕のある暮らしをしたいならなおさらです。
以上から、老後を安心して過ごすためには、貯蓄で備えをしておくことはもちろん、無理のない範囲で退職金の運用を視野に入れてもいいかもしれません。
インフレリスクへの備え
長い老後を過ごすうえで、インフレリスクにも考慮が必要です。ここ最近でも、さまざまな物価が年々上昇しており、生活が苦しくなったと感じている方もいるのではないでしょうか。
貯蓄という方法は、元金は守れますがインフレには弱いです。退職金を受け取ったときの価値のまま、数十年も過ごせるとは限りません。たとえ1,000万円の退職金を受け取っても、インフレにより価値が目減りしてしまうリスクがあります。
このインフレリスクを避けるには、資産運用が効果的です。ただし老後の資産運用は慎重にならなければなりません。どのように運用していくべきか、おすすめの方法をご紹介していきます。
退職金のおすすめ運用方法6選!
資産運用するにはさまざまな方法がありますが、特に退職金の運用におすすめなのは以下の6種類です。
●退職金定期預金
●投資信託
●個人向け国債
●株式投資
●貯蓄型保険
●外貨預金
それぞれどのような特徴があるのか、メリット・デメリットを詳しくご紹介していきます。
退職金定期預金
安定志向の人におすすめなのが、「退職金定期預金」です。預け入れの資金を退職金に限定しており、通常の定期預金よりも金利がやや高い傾向にあります。多くの金融機関で取り扱いがあり、それぞれ特有の特徴があります。
退職金定期預金の一番のメリットは、やはり元本保証があることです。大きく資産を増やすことはできませんが、普通の定期預金よりも利率が良いという特徴もあります。
メリット |
デメリット |
・元本が保障されている ・普通の定期預金よりも金利が高い |
・高金利の期間は限定されている ・利用に条件が付くこともある |
ただし長期間の利用は難しく、定められた期間が終了すると普通の定期預金に移行することが多いです。また利用するには、投資信託を同時に申し込むといった条件が付く場合もあります。
退職金定期預金は、その後の資産運用に向けて、一時的に資産を預けるという使い方がおすすめです。
投資信託
投資信託(ファンド)とは、投資のプロであるファンドマネージャーが投資家から集めた資金を使って、複数の金融商品に投資することです。プロが選んだ『おすすめ銘柄の詰め合わせ』を購入するイメージを持つとよいでしょう。
自分で銘柄を選ぶ必要がなく、少額から複数の銘柄に投資できるため、初心者でも挑戦しやすいです。元本保証はありませんが、比較的リスクを抑えながら、リターンを期待できる金融商品と言えます。
メリット |
デメリット |
・プロに運用を任せられる ・少額から分散投資が可能 ・NISAを利用すると節税になる |
・元本保証はない ・手数料が発生する |
投資信託には、対象の銘柄や運用方針などによってさまざまな種類があります。
●対象:株式、債券、不動産、外国株式・債券、金など ●運用方針:株価指数に連動するのを目指すインデックスファンド 株価指数より高いパフォーマンスを目指すアクティブファンド |
投資信託は、毎月一定額を積み立てて投資することも可能です。株式投資に比べると比較的リスクが低いと言われていますが、種類によってはハイリスクなものもあります。投資をする前に、特徴をよく確認しましょう。
また、投資信託の種類によってはNISAを利用して節税することも可能です。NISAについては、後述するQ&Aで詳しくご紹介します。
投資信託のことをもっと詳しく知りたい場合は、以下の記事もぜひ参考にしてみてください。
個人向け国債
個人向け国債とは国が発行している債券で、企業や団体ではなく個人のみ購入できます。そもそも債券とは何かというと、借用書のようなものです。債券の発行体にお金を貸していると考えればよいでしょう。
債券の発行体は、国や地方自治体、企業などですが、国が発行している国債は特にリスクが低い金融商品です。あらかじめ決められた満期になれば、額面通りの金額が返還されるほか、償還中は利息を受け取れます。ただし償還前に解約すると受け取れる利息が少なくなり、また市場で売買すると損失が発生することもあるので注意しましょう。
メリット |
デメリット |
・リスクが非常に低い (元本がほぼ保証されている) ・定期預金よりも高い利息を受け取れる ・最低金利が保障されている |
・投資信託や株式投資ほどの利益は期待できない ・償還前に売買すると損失が発生することも |
個人向け国債には、以下の種類があります。
●固定3年 → 固定金利型。償還期間3年
●固定5年 → 固定金利型。償還期間5年
●変動10年 → 変動金利型。償還期間10年
個人向け国債は、元本がほぼ保証されているうえ、定期的に利息を受け取れます。日々の生活で+αの収入が欲しい人にも向いているでしょう。
低金利が続く昨今はあまり金利が高いとは言えませんが、定期預金よりも金利が高い場合が多く、最低金利も保障されています。ただし、今後の動向によっては定期預金の方が有利な金利になることもあるので、事前に確認しましょう。
株式投資
株式投資は、企業の株式を購入して値上がり益や配当益を得る投資方法です。そのほか、株主優待を得られる銘柄もあります。
メリット |
デメリット |
・資産を大きく増やせる可能性がある ・配当益を得られる ・株主優待を得られることもある |
・元本保証がない ・リスクが比較的大きい
|
株式投資は大きなリターンを期待できる一方、損失が発生するリスクも高くなります。自分で銘柄を選ばなければならないため、知識も必要です。初心者には少しハードルが高くなりますが、業績が安定していたり今後の成長が期待できたりする銘柄を選ぶことで、資産を上手に増やせる可能性があります。
投資信託や国債よりも資金力を求められますが、積極的に資産運用していきたい、株主優待を得たいと考えている人には向いています。
大切な老後資金を大幅に減らすことがないよう、株式投資は必ず事前に知識をつけてから挑戦してくださいね。
貯蓄型保険
貯蓄型保険とは、掛金を掛け捨てではなく貯蓄していく保険です。貯蓄の代わりになるだけでなく保険としても利用できるので、万が一の事態にも備えられます。
メリット |
デメリット |
・貯蓄だけでなく保障も得られる ・相続対策にも活用できる |
・金利(運用利回り)はあまり高くない ・保険料が比較的高額 |
貯蓄型保険はあまり運用利回りが高くありませんが、堅実に備えておきたい人に向いています。また貯蓄や保障だけでなく、相続対策に活用できるのもポイントです。
代表的な貯蓄型保険は、以下の通りです。
終身保険
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死亡時や高度障害時に保険を受け取れるほか、解約返戻金を受け取れる。 |
低解約返戻金型終身保険 |
低解約返礼期間中に解約すると返戻金が通常よりも低くなる代わりに、低解約返礼期間後に解約すると返戻金が増える終身保険。 |
養老保険 |
満期になると「満期保険金」を、死亡時には「死亡保険金」を受け取れる。 |
個人年金保険 |
老後の生活資金のため、積み立てた掛金を年金のように月ごともしくは年ごとに受け取れる。 |
このほか、学資保険も貯蓄型保険ですが、老後の資産運用には利用できません。保険についてもっと詳しく知りたい場合は、以下の記事も参考にしてみてください。
外貨預金
外貨預金とは、その名の通りドルやユーロなどの外貨による預金のことです。外貨は円よりも高金利なうえ、手持ちの通貨を分散できるというメリットがあります。また預け入れ時よりも円安が進むと、為替差益を得られるかもしれません。
メリット |
デメリット |
・円よりも高金利 ・通貨分散できる ・為替差益を得られる可能性がある |
・為替リスクがある ・手数料が高め ・為替差損の可能性がある |
ただし為替リスクや手数料が高めで、円高になると為替差損というデメリットもあるので、すべての資金を外貨にするのはおすすめできません。特に通貨によってはリスクが非常に高くなります。高金利だからといって、安易に挑戦するのは危険です。
そのほかの選択肢
資産運用にはさまざまな種類があるので、上記以外の方法も簡単にご紹介します。状況によってはこれらの運用方法を検討してみてもよいかもしれません。
不動産投資信託、不動産クラウドファンディング
不動産投資信託とは、不動産を対象とした投資信託です。実際に不動産を購入する不動産投資の場合、手元の資金が大幅に減るうえに失敗したときのリスクが高くなりますが、不動産投資信託であれば、少額から始められます。
同様に、不動産クラウドファンディングも少額から不動産投資が可能な手法です。不動産クラウドファンディングは、事業者が出資者から集めた資金を使って不動産を購入し、運用して得られた利益を出資者に分配します。
不動産投資信託と不動産クラウドファンディングは、ともにプロに運用を任せられたり少額から投資が可能だったりなどの共通点がありますが、以下のような違いがあります。
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不動産投資信託 |
不動産 クラウドファンディング |
市場規模・ファンド数 |
〇 |
△ |
利回り |
ファンドによって不安定 参考値:-7%~17%程度 |
比較的安定している 参考値:3~8%程度 |
最低購入金額 |
100円~ |
1万円~ |
買いやすさ・売りやすさ |
〇 |
△ |
分散投資 |
〇(複数の物件に投資) |
△(一つの物件が一般的) |
元本割れへの対策 |
×(特になし) |
〇 |
不動産投資信託の方が市場規模も大きく取扱いがしやすいですが、不動産クラウドファンディングの方が、利回りが比較的安定しており、元本割れへの対策があるといったメリットがあります。
不動産投資が気になる場合は、ぜひ上記を参考にしてみてください。
ファンドラップ
ファンドラップとは、簡単にいうと資産運用の一切をお任せすることです。購入するのは投資信託で、どのファンドを買うのか、どれくらいの割合で買うのか、運用状況の確認やリバランス、運用期間などすべて一任できます。
しかしファンドラップは運用にかかる手間が一切かからない代わりに、手数料は比較的高額です。また、運用を任せる投資アドバイザーとの相性も重要になるので、慎重に選びましょう。
ヘッジファンド
ヘッジファンドは、投資信託のようにプロに運用を任せる投資手法です。投資信託との大きな違いは私募であることで、金融庁の厳しい規制を受けません。「絶対利益を追求する」という理念のもと、さまざまな手法を用いて大きな利益を追求します。
年利10~20%ほどの高い利回りを期待できますが、リスクも十分考慮しましょう。また最低投資額は1,000万円程度とかなり高額なので、資金に余裕がある場合に検討してみてください。
退職金を運用するときの注意点
退職金を運用する場合、どの金融商品を選ぶのかは重要ですが、運用方法にも注意しましょう。特に老後は、現役世代とは違い収入を得る手段が限られているうえ、リカバリーする時間も短いです。大切な資金を守るための注意点をご紹介していきます。
万が一の資産は残しておく
退職金をすべて運用に回すと、急に現金が必要になったときに対処できないかもしれません。投資運用に回した資金はすぐに現金化できない場合もあるため、病気や家のリフォーム、冠婚葬祭など急に現金が必要になったときに、困ることも考えられます。
特に60代以上は急に大きな資金が動く場合もあります。そのような事態に備えて、退職金はすべて運用に回すのではなく、万が一の資産は預金で持っておきましょう。安全資産という意味でも重要です。
流動性が高い資産で運用する
前述した通り、60代以上の場合はいつ急に現金が必要になるのか予測しにくいため、できるだけ現金化しやすい、流動性が高い金融商品を選びましょう。
たとえば不動産なども投資対象の一つですが、すぐに現金化するのが難しい投資先のひとつです。不動産投資をするなら投資信託やクラウドファンディングを利用するとよいでしょう。
退職後の収支状況を確認してから投資する
退職金という大金が手に入ると、大半を投資に回しても大丈夫だと判断するかもしれません。しかし現役時代と退職後では、収支のバランスが変化することもあるでしょう。退職後は時間ができるため、思ったよりも趣味や娯楽にお金がかかるかもしれません。
大半の資金を投資に回して後で困ることがないよう、退職後の収支状況を把握したうえで、無理のない範囲で投資を始めましょう。
リスクが高い運用はしない
リスクが高い運用は、大きなリターンを期待できるかわりに、失敗したときのダメージも大きい傾向にあります。退職金は老後のための大切な資産です。無理な運用をして大きな損失が出たら、生活に支障が出てしまいます。
現役時代であれば、損失が出ても労働で得た収益でカバーする、長期運用で含み損をカバーするといった対策を取れますが、退職後は難しいこともあるでしょう。老後の運用は、できるだけリスクを避けるのが鉄則です。
長期投資で「増やすより維持する」を目指す
資産運用は長期投資が基本です。特に老後の場合、短期で大きな利益を狙って失敗した場合、リカバリーする時間が足りなくなるかもしれません。
老後の資産運用は、大きく増やすことを目標にするのではなく、長期的な視野を持って安定して維持することを目指してみてください。
分散投資を心掛ける
リスクを下げる手法の一つが分散投資です。ひとつの金融商品ですべての資産を運用していた場合、相場が下がったときに大きな損失が発生します。しかし分散投資をしていると、どれか一つが下がってもほかのものでカバーできるかもしれません。
分散投資をする場合は、異なる特徴を持つ金融商品を選びましょう。たとえば、株式投資に対しては国債、円通貨に対しては外貨といった具合です。
退職前から投資に慣れておく
退職金という大きな資産が手元に入ると、さまざまな金融機関から資産運用の話を聞くかもしれません。このときに進められるまま、ある程度の知識もないままに運用してしまうと、思わぬ損失を招く可能性があります。
たとえば一度に多額の資金を運用して生活に支障が出る、相場が下がったタイミングで焦って売却して大きな損失を被るなどです。
資産運用は、メンタルの部分も含めてある程度慣れが必要です。そのためには、できるだけ退職前から投資に触れておくとよいでしょう。また慣れないうちは、特にリスクが高めの金融商品には挑戦しないほうが賢明です。
手数料を確認する
資産運用にはさまざまな手数料が発生します。たとえば同じ投資信託でも、金融機関によって手数料は異なります。一般的にはネット証券は対面の証券会社よりも手数料が低いことが多いです。
ただし対面の証券会社だと、直接相談に乗ってもらえるなどのメリットもあります。発生する手数料や、それに伴うサービス内容は必ず確認しましょう。
出口戦略を考えておく
出口戦略とは、投資運用をどこまで行うか、売却や取り崩し方法はどうするのかということです。保険や国債といった期間が決まっている商品であれば、それほど悩むことはありません。
しかし投資信託や株式などの場合は、最終的にすべて解約するつもりなのか、取り崩しながら生活していくのか考えておきましょう。取り崩す場合の方法は、主に以下の3つです。
●定額
たとえば「毎月10万円」のように、決まった金額を取り崩していく方法です。毎月決まった金額を受け取れますが、思ったよりも早く資産が枯渇する可能性もあります。老後の終盤に資金が足りなくならないよう、受取額を調整しましょう。
●定口数
保有口数に対し、一定の数で取り崩していく方法です。全保有口数を受け取りたい年数で割り、取り崩していきます。口数に対する金額は変動するため、受け取れる金額は一定ではありませんが、受け取れる年数は明確です。
●定率
定率法は、保有している資産に対して、一定の割合で取り崩していく方法です。定率法は、取り崩す割合より運用成績が上回れば、資産を大幅に減らすことなく取り崩していけます。
定率法でよく提唱されているのが「4%ルール」です。たとえば2,000万円の資産があるとして、1年につき「4%=80万円」取り崩していきます。この場合、運用成績が4%を上回れば、30年以上経っても資産が枯渇する可能性は低いと言われています。
最適な取り崩し方は、資産状況や生活の状況によっても異なります。当初は定率法、終盤には定額法など、組み合わせてみてもよいかもしれません。
失敗するケースとは?
退職金の運用をおすすめしてきましたが、残念ながら失敗してしまうケースもあります。失敗するケースには共通点が多いので、同じような失敗をしないよう、以下を参考にしてみてください。
勧誘されたまま理解せずに運用する
多くの金融機関では退職金を含めた運用相談を行っていますが、そこでおすすめされた商品をよく理解しないまま購入してしまい、失敗するケースがあります。
たとえば金利の高さといったメリットだけに着目して、リスクが高かったり流動性が低かったりなどのデメリットを理解しないまま購入するケースです。この場合、資産が大幅に減る、必要なときに現金が手元にないといったトラブルが発生するかもしれません。
また退職金定期預金の場合、高金利の期間がずっと続くと勘違いする、条件として義務付けられている投資信託を知らずに契約するといったトラブルもあるようです。
運用を人任せにすると、思いがけないトラブルに遭遇するかもしれません。退職金を運用する場合は、必ずご自身が理解したうえで挑戦しましょう。
資産を全額投資してしまう
資産が増えるならと全財産投資してしまい、資産を大幅に減らす、必要なときに手元にお金がないという失敗もよくあります。特にリスクの高い運用を行った場合は、資産が減る可能性もあるでしょう。相場が下がったタイミングで資金が必要になった場合、損失を覚悟のうえで取り崩さねばなりません。
このとき、預金のように安全性や流動性の高い資金があれば、相場が持ち直すまでしのげる可能性があります。退職金は全額投資に回すのではなく、万が一の資金はとっておきましょう。
ハイリスク商品やひとつの商品に投資する
リスクが高すぎるものやひとつの商品で運用していると、相場が下がったときに資産が大幅に減少する可能性があります。
特に順調に運用できていると気が大きくなり、リスクが高いものにも挑戦したくなるかもしれません。しかし老後はなるべくリスクが高い運用は避けるべきです。挑戦する場合は、たとえ損失が出てもどれくらいまでなら大丈夫か、事前にしっかり考えてみてください。
またリスクを下げるには分散投資が鉄則です。ひとつの商品の相場が下がっても、ほかのものでカバーできるよう、分散投資を心掛けましょう。
退職金詐欺や悪徳商法には要注意
高額な退職金を狙った詐欺や悪徳商法にも注意が必要です。さまざまな手口がありますが、「投資で儲かる」と誘われることもあります。
自分が理解できない投資や、『リスクがないけど高金利』といったうますぎる話には注意してください。悩んだときは周りの人や金融の専門家などに相談するなりして、早急な判断は避けましょう。
よくある質問
退職金の運用に関して、よくある質問をまとめました。こちらもぜひ参考にしてみてください。
NISAを利用すると何がいいの?
NISAとは国が定めた非課税制度です。通常、投資信託や株式投資などの資産運用を行った場合、発生した利益に対して「20.315%」の税金が発生します。
しかしNISA口座で運用していた場合は、その税金が免除されます。たとえば100万円を運用していて10万円の利益が発生した場合、通常の口座だと20,315円の税金が発生するので、手元に残るのは「79,685円」です。一方NISA口座の場合は非課税なので、10万円そのまま手元に残ります。
資産運用をするなら、NISAを利用しない手はありません。まだNISA口座を開設していない場合は、以下の記事も参考にしながら挑戦してみてはいかがでしょうか。
退職金の税金はどれくらい?
退職金にかかる税金は「所得税」「住民税」「復興特別所得税(2037年まで)」の3つです。ただし退職金は長年の勤労への報酬という意味合いが強いため、手厚い控除があります。
<退職所得控除額>
勤続年数 |
退職所得控除額 |
20年以下 |
40万円×勤続年数 |
20年超 |
800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職金の税金は、以下の順番で計算すると求められます。
1.退職金-退職所得控除額
2.(1で算出した金額)÷2=課税退職所得
3.各種税金の計算をする
・所得税=課税退職所得×所得税率-控除額
・住民税=課税退職所得×税率10%
・復興特別所得税=退職金の所得税×税率2.1%
所得税率や控除額など詳しい内容は、国税庁のHPに掲載されているので、こちらも参考にしてみてください。
iDeCoと退職金は同時に受け取っても大丈夫?
iDeCoとは個人型確定拠出年金のことで、私的年金に当たります。受け取れるのは60歳以降で、受け取り方は一時金、年金、一時金と年金の併用の3種類です。
iDeCoと退職金は同時に受け取れますが、受け取り方によって支払う税金が異なるので注意しましょう。一時金として受け取る場合は「退職所得」、年金で受け取る場合は「雑所得」扱いです。
つまり、iDeCoの一時金と退職金を同時に受け取った場合、どちらも退職所得となるため退職所得控除額を大幅に超えてしまい、税金が高くなる可能性があります。年金で受け取る場合は公的年金と同じく雑所得となり、公的年金等の控除額の対象です。
退職所得控除はほかの控除よりも優遇されているとはいえ、一時金と退職金を合わせた金額が大幅に退職所得控除額を上回った場合は、思いがけず高額な税金が発生するかもしれません。
一時金と年金のどちらで受け取るかは、それぞれの税金を計算して検討してみるとよいでしょう。
退職金の相談はどこで・誰にできる?
退職金の運用に興味があるけれど、挑戦するのが不安だという場合は、専門家に相談するのがおすすめです。たとえば、以下のような相談先があります。
●証券会社や銀行などの金融機関
運用方法を相談するには、一番身近な相談先と言えます。すでに付き合いのある金融機関はもちろん、新しく証券会社に口座を開設するなら、相談に力を入れているところを選んでみてはいかがでしょうか。ファンドラップを取り扱っている金融機関も少なくありません。
ただし、金融機関の場合は自社で取り扱っている商品を積極的に進めてくる傾向があります。自分で理解できないものには手を出さない、リスクを十分に理解する、複数人のアドバイスを参考にするなど、慎重に判断しましょう。
●IFA
IFAとは、独立系ファイナンシャルアドバイザーのことです。資産運用のアドバイスを行う専門家で、特定の金融機関に所属していないため、さまざまな商品から個々人に最適なものを選んでくれます。幅広い知識で具体的にサポートしてくれるので、安心して相談できるでしょう。退職金の相談先として、近年人気が上がっています。
●ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナーは、主に家計や資産形成の相談に乗ってくれます。家計の状況からすべて総合的に相談したい人に向いているでしょう。通常、個別の金融商品の提案は行いませんが、保険会社や銀行、証券会社などに所属している場合は、金融商品の紹介があるかもしれません。
まとめ
老後を安心して過ごすには、退職金を賢く運用するのがおすすめです。運用方法には、投資信託や株式投資などさまざまな方法があります。それぞれにメリットやデメリットがあるので、特徴を理解して無理のないよう続けるのが重要です。
またできるだけ資産を減らさないよう、無理な運用は避けましょう。本記事でご紹介した注意点や失敗しがちなケースも、ぜひ参考にしてみてください。不安な場合は、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。