【初心者必見】金利と株価の基本|
逆相関の理由や日米金利差・投資への影響も解説
普段、耳にすることも多い「金利」や「株価」という言葉ですが、実はこれらは密接にかかわっています。そもそも金利とはどのように決まるのか、株価にどのような影響を与えるのか、詳しくはよくわからないという人もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、金利と株価の基本的な関係について、経済にあまり詳しくない初心者でもわかるように丁寧に解説していきます。
・目次
金利とは何か
まず「金利」とは何かを正確に把握しておきましょう。金利とは、借りたお金の元金にかかる「利息の割合」のことです。同じ意味の言葉に、「利率」があります。
金融機関などからお金を借りた場合、借りた側は借りたお金だけでなく、対価として利息を上乗せして返済します。このときの上乗せ分の割合が、金利です。
金利と混同しやすい言葉について、違いをまとめてみました。
利率 |
金利と同じ意味。ローンなど消費者が借りる場合は「金利」、投資商品では「利率」が使われることが多いです。 |
年利 |
1年あたりの利率のこと。 |
利息・利子 |
金利や利率に基づいて算出された金額のこと。 利子→お金を借りた側が、貸した側に返済する金額。 |
利回り |
投資に対する収益の割合のこと。投資した金額に対して、年間でどれくらいの利益を得られたか、投資効率を示しています。 |
普段何気なく使い分けている言葉だとは思いますが、違いを改めて理解しておきましょう。
金利は誰が決める?日銀の政策金利とは
金利は、利息制限法で定められた上限を超えない範囲で、各金融機関が自由に決められます。ただし自由にとはいっても、日本銀行の金融政策に基づいて設定されることがほとんどです。たとえば、住宅ローンの変動金利は、日本銀行が定めた政策金利(誘導目標金利)をベースに、各金融機関で定められています。
日銀が行う金融政策は、主に以下の2つです。
●金融引き締め
政策金利の引き上げ、預金比率の引き上げ、金融機関への国債売却などを行って、お金を借りにくくします。過熱した景気やインフレを抑制するために、市場に出回る通貨の供給量を減少させて、消費行動や投資を控えるよう働きかける政策です。
●金融緩和
政策金利の引き下げやマイナス金利政策、国債の買い入れなどを行って、お金を借りやすくする政策です。景気を好転させるために、市場にお金を流通させて、経済成長を促します。
金利の種類
金融機関等の金利を見ると、「〇〇金利」という複数の種類が提示されており、実際はどの金利が適用されるのか、いまいちわからないという人も少なくないのではないでしょうか。
金利にはいくつかの種類があるので、違いを確認しておきましょう。
名目金利 |
物価上昇率などの経済状況を勘案していない金利。 銀行等の店頭で目にする金利は名目金利。 |
実質金利 |
名目金利から物価上昇率を引いた金利。 |
長期金利 |
金融機関が1年以上のお金を貸すときの金利。 景気や為替動向、物価の上昇など、さまざまな理由で変動する。 指標となるのは、10年国債の金利。 |
短期金利 |
金融機関が1年未満のお金を貸すときの金利。 指標となるのは政策金利のため、中央銀行によってコントロール可能。 |
固定金利 |
借入時の金利が一定期間変化しない。 |
変動金利 |
状況によって金利が変動するため、経済状況の影響を強く受ける。政策金利が指標となる。 |
基準金利 |
各金融機関が定めている、基準となる店頭金利。 |
適用金利 |
基準金利(店頭金利)から、優遇や割引されたあとの金利。 |
金利が個人や企業に与える影響
金利の動向は経済に大きな影響を与えます。日銀が金融政策で金利を調整するのは、まさに経済の流れをコントロールするためです。では具体的に、金利の変化は企業や個人にどのような影響を及ぼすのか、ご紹介していきます。
<企業に与える影響>
●金利が高くなる場合
利子が高くなるため、金融機関から大規模な融資を受けるのが難しくなります。特に資金繰りがタイトな中小企業にとっては打撃が大きく、設備投資や人材確保を後回しにせざるを得なくなるケースもあるでしょう。結果として業績が伸び悩み、株価の下落につながるおそれがあります。
一方で、十分な内部留保を持つ大企業の場合は、金融機関からの借入がなくとも成長を続けられるかもしれません。このように、企業の規模によっても影響の度合いは異なります。
●金利が低くなる場合
金利が低いと金融機関からお金を借りやすくなるため、積極的に新規事業や設備にも投資が可能です。投資の結果、業績が上がれば株価の上昇にもつながるでしょう。特にスタートアップ企業やベンチャー企業にとっては、業績アップを後押しする要因になります。
<個人への影響>
●金利が高くなる場合
住宅ローンや車のローンなどは金利が高くなると返済額も増えるため、消費意欲が低下します。また金利の上昇に伴い企業の業績が悪化した場合、ボーナスが減額するなど個人の収入にもマイナスの影響が出るかもしれません。
一方で預金の金利は上昇するため、預金や国債などの安全資産を重視する人にとってはプラスに働きます。株式といった投資や消費活動よりも、貯蓄にお金を回す傾向が強くなると考えられます。
●金利が低くなる場合
金利が低くなると、住宅ローンや車のローンを借りやすくなります。特に若い世代や子育て世代などにとっては住宅ローンを組む絶好のチャンスとなるため、住宅需要が高まり不動産関連株の上昇につながることがあります。
企業の業績が改善されれば、賃金アップにより個人の消費も高まるでしょう。また低金利時では預金の魅力が下がるため、株式や投資信託に資金を回す傾向も強まり、株価の押し上げにつながる要因となります。
株価はどう決まる?
企業の株価は、需要と供給のバランスによって常に変動しています。基本的に、「買いたい」人が多ければ株価は上がり、「売りたい」人が多ければ株価は下がる仕組みです。その需要を左右する要因は一つではなく、さまざまな要素が絡み合っています。
業績や将来性などの内的要因
企業の株価に最も直接的な影響を与えるのは、なんといってもその企業の業績です。売上や利益が伸びている企業は、高い配当金や株価の上昇が期待できるため、投資家から人気があり株価も上がります。反対に業績が悪化している企業は、今後の成長が期待できずに株式を売却する人が増え、株価が下がる傾向にあります。
また業績そのものだけでなく、「新しい技術」や「画期的なサービス」など将来性を感じさせる事業を行っているかといった点にも注目が集まります。たとえば、今はまだ大きな利益を上げていなくても、成長分野であるAI関連企業などの株価は比較的高いです。業績そのものよりも成長性を期待されて、市場で株価が高く評価される傾向にあります。
そのほか、「PER(株価収益率)」や「PBR(株価純資産倍率)」といった指標も株価の形成に影響を与えます。これらの指標は、株価が割安か割高かを見分けるための指標です。詳しくは、以下の記事を参考にしてみてください。
金利や為替などの外的要因
企業の業績のほか株価に影響を与えるのは、金利や為替、景気、海外動向などの外的要因です。金利についてはのちほど詳しく解説していくので、まずはそのほかの要因についてご紹介していきます。
●為替の影響
為替動向は、主に輸入や輸出を行っている企業の株価に影響を与えます。わかりやすく例を使って確認していきましょう。
<例>1万ドルの商品を購入、もしくは販売する場合>
為替(1ドルあたり) |
輸入企業 商品を購入するのに支払う金額 |
輸出企業 商品を販売して得る利益 |
100円 |
100万円 |
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130円 |
130万円 |
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90円 |
90万円 |
輸入企業の場合、1ドル100円のときに1万ドルの商品を購入すると代金は100万円です。しかしそれが130円の円安になれば130万円必要となり、90円の円高になれば90万円で済みます。つまり、円安になると輸入業界の企業にとっては不利な状況になるということです。
一方輸出業界の企業は、1万ドルの商品を売った場合、1ドル130円の円安であれば130万円の利益、90円の円高であれば90万円の利益になるので、円安の局面で有利になるのがわかるでしょう。
このように為替の動向は輸入や輸出を行う企業の業績に関係が深く、株価にも影響を及ぼします。たとえば、自動車や電機メーカーなどの輸出型企業は、円安のときに株価が上がる傾向にあります。
●景気の影響
基本的には、好景気になれば商品やサービスがよく売れるようになるため、企業の業績が良くなり株価も上昇する傾向にあります。反対に、不景気は消費活動が抑えられるため、株価が低下する要因のひとつです。
ただし、不景気でも株価が上昇することがあります。株価はさまざまな要因により変化するため、単純に景気の動向のみで判断するのは危険です。
景気の悪化は金利を下げる要因になりますが、金利が下がると株価が上昇する傾向があります。そのため、不景気にもかかわらず株高という状況が生まれることも少なくありません。
●海外市場の影響
株式市場は海外の投資家に開かれており、日本の株式に投資をするのは日本人だけではありません。日本の株式市場における投資額の6割以上は、海外の投資家によるものだといわれています。
そのため、米国といった海外市場の値動きと日本の海外株式市場は連動する傾向にあります。たとえば米国の株式市場が好調であれば、投資家はよりリスクを取りやすくなるため、日本の株式にも積極的に投資をし、結果的に株価を押し上げます。逆に米国株式市場が不調であれば、日本の株式市場にもマイナスの影響があるということです。
そのほか投資家心理や自然災害などの影響
そのほか、投資家の心理や自然災害なども株価に影響を与えます。株価は人気があればあるほど買いたい人が増えて値上がりします。しかし業績が安定して利益が出ていても、あまり注目されなければ、株価が割安になることもあるのです。このような投資家心理や需給バランスも株価には影響を与えます。
そのほか自然災害が起きたときは、被害を受けた企業の株価は下がりがちです。また気候も影響を与えることがあります。たとえば猛暑の年は、エアコンやハンディファン、冷却シートなど涼しくなるためのアイテムを扱う企業の業績は伸びるでしょう。
このように、株価の変動にはさまざまな要因があり、単純にどれかひとつが影響するわけではありません。
金利と株価は逆相関の関係
金利もまた、株価に影響を与える要因のひとつです。一般的に「金利が上がると株価は下がり、金利が下がると株価は上がる」と言われており、逆相関の関係にあります。
出典:株式マーケットデータ
株価はさまざまな要因に影響されて変動するため、必ずしも金利と逆相関になるわけではありません。しかし、大まかにみたときに逆相関の傾向があることがわかるでしょう。
過去の事例でみる金利と株価の関係
実際に過去の事例から、金利と株価の関係を見てみましょう。
●バブル崩壊(1990年頃)
日本のバブル経済期(1980年代後半~1990年初頭)には、土地や株式に資金が多く流れこみ、価格が急騰しました。日経平均株価は、1989年末に38,915円という史上最高値を記録します。あまりの急騰ぶりに深刻なインフレを懸念した日銀が金融引き締めを行い、金利が引き上げられたことがきっかけで、株価は急落しています。この時期を境に、日本は長い不況時代に突入しました。
●リーマンショック(2008年)
米国のサブプライムローン問題が引き金となった「リーマンショック」により、米国だけでなく世界中の株式市場が暴落しました。株価を上げるべく、各国は金融緩和により金利を引き下げる政策をとっています。ただし世界的な金融危機の混乱からはすぐに回復することができず、利下げの効果が出て株価が回復するまでには数年を要しています。
●コロナショック(2020年)
新型コロナウイルスが世界的に流行したことにより、株価は急落しました。しかし各国が早々に金融緩和を行った結果、株価は急速に回復しています。
このように、金利と株価は必ずしも逆相関になるわけではありませんが、密接に関わっていることがわかります。
金利上昇で株価が下がる理由
金利が株価に大きな影響を与えるのはなぜなのか、まずは金利が上昇したときに、株価の変動にどのような影響を与えるのか解説していきます。
借入コストが増える
金利が上がれば、借入金に対する利息も大きくなります。借入コストの増大は、企業にとって大きな負担です。利益率が下がったり、マイナスになったりすることもあるでしょう。利益の減少は企業にとってマイナス要因なので、株価下落の要因になります。
新たな資金を借りにくくなる
金利が上がれば、新たな資金も借りにくくなります。金利を上回る利益を上げられなければ、負担が大きくなりすぎるからです。資金がなければ新しい事業を始めたり設備投資したりするのが難しくなるため、業績は伸び悩みます。あまりにも長く停滞していると投資家からの人気は落ち、株価は低下しがちです。
投資マネーが債券や預金に流入する
長期金利は、10年国債の利率と連動する傾向にあります。そのため、金利が上がるということは、債券の利率上昇を意味し、債券の人気が高くなります。
また当然、預金の金利も回復するため、株式や投資信託に流れていた投資マネーが、より安全な債券や預金に流入しがちです。投資マネーが減少すれば、株式市場の動きは停滞することになり、株価にもマイナスの影響が出る可能性があります。
金利低下で株価が上がる理由
反対に、金利が下がった場合はどのような影響があるのか、みていきましょう。
資金を借りやすくなり設備投資できる
金利が下がれば、借入コストも抑えられ、新たな資金も借りやすくなります。そのため、業績を上げるための設備投資や人材確保、新たな事業への挑戦などが可能です。業績が上がれば、企業の株価も上がりやすくなるでしょう。
投資マネーが株式に流入する
金利が下がれば利息も少なくなるため、預金や債券の人気が下がります。その分、株式や投資信託などの投資にお金が流入するため、株式市場は活発になる傾向があります。投資が活発になれば、株価は上昇しがちです。
そのほか覚えておくべき金利と株価の特徴
金利と株価は密接に関わっており、基本的に逆相関の関係ですが、為替や市場動向などさまざまな要因にも影響を受けます。最後に、上記でご紹介した内容のほか、知っておきたいポイントについてもご紹介しておきます。
日米金利差が株価に与える影響について
日本と米国の金利差も、株価に影響を与えます。なぜなら、日米の金利差は為替に大きく関わるからです。
米国の金利は好調な経済成長に支えられ、比較的高水準で推移しています。一方日本は、長らく続いた金融緩和の影響で低い金利で推移しており、金利差があります。たとえば、2025年8月における米国の長期金利は4.2%~4.3%程度、日本の長期金利(10年国債利回り)は1.5%~1.6%程度です。
<日本の長期金利と米国の長期金利のチャート>
出典:株式会社マーケットデータ
資産運用を考えたときに、金利が高い方が高利益を得られることから、お金は金利の低いほうから高い方へ流れます。つまり、金利の低い日本から金利の高い米国に資金が流入するということです。米国に資金が流れると円安ドル高が進み、為替相場が動く要因になります。また金利差が縮まると、円高ドル安の傾向に相場が動きます。
為替は株価に影響を与える要因のひとつなので、結果的に日米の金利差は株価に影響を与えることになります。
必ずしも逆相関になるわけではない
金利と株価は基本的に逆相関になる傾向がありますが、必ずしもそうなるとは言えません。たとえば、好景気に後押しされ金利が上がった場合、株価も上がる傾向にあります。
好景気であれば、たとえ金利が高くても利益を上げられる見込みがあるため、資金の調達を進める企業も少なくないからです。また、金利が上昇したとしても、それを上回る勢いがある企業の株価は上昇するでしょう。
このように株価は、金利のほかにもさまざまな要因によって変動します。必ずしも金利と逆相関になるわけではないことを覚えておいてください。
金利が変動したときの投資判断はどうする?
金利の変動は株価に影響を与えますが、その影響の大小は企業の業績や業界などによって異なります。すべての銘柄に、同じような影響が出るわけではありません。では金利が上昇する局面と下落する局面では、どのような戦略を取るべきか簡単にご紹介します。
<金利の上昇局面>
金利が上昇するときには株価は下落しやすくなるので、リスク回避を意識した運用がおすすめです。また、金利が上昇することで利益が上がりやすい、金融業界の銘柄に投資するのもよいでしょう。
- 債券の保有比率を上げる
- バリュー株(割安株)への投資
- 金融株に注目する
<金利の下落局面>
金利が低下すると企業の投資が活発になり、株価は全体的に上昇する傾向にあります。特に勢いのあるスタートアップ企業や、新しい事業を展開しようとしている企業に投資するのもよいでしょう。
- 株式比率を上げる
- グロース株(成長株)への投資
※バリュー株とグロース株については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
バリュー株・グロース株とは?定義や違い、見分け方に代表的な銘柄まで徹底解説
ただし株価に影響するのは、金利だけではありません。企業の業績やそのほかの外的要因などにも考慮し、ポートフォリオや投資戦略を見直してみてください。
まとめ
金利は、株価の変動に影響を与える要因の一つです。基本的に金利が上がれば株価は下がり、金利が下がれば株価が上がるという逆相関の関係が見られます。
ただし、株価はその企業の業績のほか、為替や景気動向、海外情勢などさまざまな要因により変動します。そのため、必ずしも金利と逆相関になるわけではないので、注意が必要です。
金利が変動する兆候があるときには、そのほかの要因にも注意しながら、投資戦略やポートフォリオの見直しをしてみてください。