【初心者向け】損切りの正しいタイミングとは?
判断基準や投資法ごとの注意点も解説
損切りは資産を守るための投資スキルのひとつですが、損切りのタイミングがよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
損切りのタイミングを間違えると、含み損が増えて精神的な負担が大きくなり、冷静に投資を継続できなくなる場合があります。
一方で、適切なタイミングで損切りできれば、損失を最小限に抑えて、次の投資のチャンスに資金を再び投入することが可能になります。
この記事では、損切りタイミングを決めるための判断基準や、投資スタイル別の損切り方法や注意すべきポイント、損切りに関してよくある質問と対策について詳しく解説します。
損切りについて理解を深めたい投資初心者の方や、損切りが苦手な方はぜひ参考にしてください。
・目次
そもそも「損切り」とは?
損切りとは、投資やトレードにおいて保有している資産が一定以上の損失を出した際に、そのポジションを清算して損失を確定させる行為をいいます。
特に、株式投資やFX、暗号資産取引などでは、損切りのタイミングを間違えると損失がどんどん膨らみ、資金を大きく減らしてしまうリスクがあります。
そのため、「損切りとはなにか」「どのような場合に損切りすべきか」を正しく理解し、状況に応じて適切な対応を取ることが大切です。
損切りは、長期的に資産を守るうえで、欠かせない重要な考え方といえます。
損切りの目的
損切りの目的は、これ以上損失が拡大しないようにすることです。例えば、株価が下落したときに「いずれは回復するだろう」と楽観的に考えて放置した場合、さらなる暴落に巻き込まれることもあります。
しかし、あらかじめ設定しておいた損切りラインまで株価が下がった場合、機械的にポジションを手放すことで大きな損失を防ぎ、次のチャンスに資金を投入できます。
特に投資初心者にとって、その時々で損切りのタイミングを決断するのは難しいため、機械的に損切りできるようあらかじめルールを作っておくことが大切です。
損切りのタイミングを前もってルール化しておくことで、感情に左右されずに冷静な取引を行えます。
損切りタイミングを見極める3つの判断基準
損切りのタイミングは資産運用をするうえで非常に重要ですが、実際は「どこで損切りすべきか迷う」という人も多いでしょう。
ここでは、損切りのタイミングを見極めるための3つの判断基準について解説します。
①一定の損失率に達したとき
損切りのタイミングを判断する基準として「一定の損失率に達したら損切りする」という方法があります。
例えば、「購入金額から8%下落したら損切りする」という明確な基準を持つことで、感情に左右されずに損切りすることが可能になります。
この方法のメリットは、損失を早期に限定できる点です。
特に投資初心者は「もう少し待てば上がるかもしれない」と考え、損切りを先延ばしにしがちです。もちろん、価格が上がることもありますが、逆に損失が膨らんでしまうこともあります。
事前に設定した損失率に達したときに自動的に損切りする仕組みを整えておけば、無駄に迷うことなく、損切りを実行できます。
損切りのラインとなる損失率ですが、例えばボラティリティ(値動きの幅)が低い株式の場合は、個人のリスク許容度に応じて5~10%ほどに設定すると良いでしょう。
損切りのルールを設定し、小さな損切りをためらわずに実行できる仕組みを作ることで、結果として大きな成功につながります。
②テクニカル指標による判断
損切りのタイミングを判断する指標として、テクニカル分析を利用することも効果的です。
テクニカル分析とは、過去の価格変動や取引量などのチャートデータをもとに、今後の価格動向を予測する手法をいいます。
特に株式やFXなどでは、チャート上に現れるパターンやトレンドの変化を読み取ることで、売買判断を客観的に行う「チャート分析による売買」が多く行われる傾向にあります。
例えば「25日移動平均線を下回った場合に損切りする」「重要なサポートラインを割り込んだ場合に損切りする」など、テクニカル上に現れたサインに基づいて損切りすることで、感情を交えずに機械的に損切りできることがメリットです。
中長期でポジションを保有する場合は、ファンダメンタルズに加えてテクニカル指標も加味して損切りを判断することで、リスク管理をより厳密に行えるようになります。
ただし、テクニカル分析も万能ではなく、「だまし」と呼ばれる偽の動きもあります。そのため、複数の指標を組み合わせて総合的に判断すると良いでしょう。
③ファンダメンタルズが悪化したとき
損切りタイミングの重要な指標としては、「ファンダメンタルズの悪化」も挙げられます。
ファンダメンタルズとは、企業の本質的な価値を評価するための基礎的な要素のことをいいます。
具体的には、企業の売上高や利益、自己資本比率やキャッシュフロー、負債の状況などの財務データや、企業のビジネスモデルや成長性、業界内での競争優位性などです。
損切りタイミングを判断する際は、これらのファンダメンタルズが重要なサインとなります。
このようなファンダメンタルズの悪化が表面化した場合は「長期保有をしていれば大丈夫だろう」と楽観的に考えるのは危険です。
最初に投資した際の前提条件が崩れた時点で、いったん損切りしてポジションを解消することが合理的な判断といえます。
損切りのタイミングが遅れるとどうなる?よくある失敗例
損切りは重要だとわかっていても、判断が難しくタイミングがずれてしまうこともあります。
特に、投資初心者だけでなく中級者であっても「もう少し待っていれば価格が戻るかもしれない」という心理から損切りタイミングを逸してしまい、大きな損失を出してしまうケースも少なくありません。
ここでは、損切りタイミングが遅れた際に起こりうる事象について、詳しく解説します。
「塩漬け株」になる
損切りを迷っているうちに、株価が下落し続けてしまい、売るに売れない「塩漬け株」になってしまうケースがあります。
ルール通りに損切りしていれば少ない損失で済んだところを、損切りを怠ったために含み損が拡大して売るに売れなくなり、何年も資金が拘束されてしまうことになります。
塩漬け株によって資金が拘束されて動かせなくなると、他の投資機会を逃してしまうことにもなります。
塩漬け株になってしまうと含み損が拡大したり、資金を拘束されたりするデメリットがあるため、早期の損切りを心掛けて柔軟な投資ができる状態を保つようにしましょう。
ナンピン買いをして傷口を広げてしまう
ナンピン買いとは、下落した株式を追加購入して、平均取得単価を引き下げる投資手法のことをいいます。
ナンピン買いは、最終的に株価が上がった場合は良い結果をもたらします。
しかし、株価が戻らなかったり、下落を続けたりした場合は大きな損失が出て、ポートフォリオ全体が大きなダメージを受けてしまうため注意が必要です。
「業績予想が良い」「競合他社に先駆けた新技術を開発している」等、しっかりとした根拠を元にしたナンピン買いはひとつの選択肢です。
しかし、企業の業績悪化や市場環境の変化など、ファンダメンタルズが悪化している場合はナンピン買いによってリスクをさらに高めてしまうことにもなります。
ナンピン買いを検討する際は、「株価がなぜ下がっているのか」ということを冷静に分析し、マイナスな要素が多い場合は、潔く損切りする判断も重要です。
含み損で冷静に投資できなくなる
損切りのタイミングを逃して含み損を抱え続けた場合、精神的なストレスが増えてしまい、他の投資でも正常な判断ができなくなることがあります。
特に、「この銘柄の損失をどうにか取り戻したい」と考えながら投資をしていると、本来であれば冷静に取引できる場面でも、無理なトレードをしてしまいがちです。
含み損を抱えると、投資で最も重要な「冷静な判断をする」ということが難しくなります。
含み損が大きくならないように、事前に決めたルールに従って損切りをするようにしましょう。
損切りタイミングの判断が難しい理由
損切りのタイミングを正しく判断することは、多くの投資家にとって難しい課題といえます。
損切りをする行為は、「失敗を認めること」と同じような意味を持つため、脳に強いストレスがかかります。
このストレスから逃げたいという潜在的な意識から「もう少し待てば価格が戻るかもしれない」という希望的観測にとらわれてしまい、損切りのタイミングを逸してしまうことがあるのです。
また、投資におけるプロスペクト理論では、人は利益を得るよりも損失を回避する場面でより感情的になることが指摘されています。
つまり、損得が絡むケースでは、人間は非合理的な行動を取りがちになり、結果的に損失を拡大させてしまうケースが多いのです。
さらに、損切りのラインを明確に決めずに投資をした場合、どこで損切りをするべきかがあいまいになり、迷いが生じて損切りのタイミングがずれてしまうこともあります。
損切りが難しいとされる要因は、このような人間の感情や心理にも原因があります。
損切りのタイミングに感情や思考を交えると、正確な判断がしにくくなりますので、事前にルールを決めておくようにしましょう。
【投資スタイル別】損切りタイミングの目安
損切りタイミングの目安は、投資スタイルによって異なります。ここでは、「株式投資」と「FXや暗号資産」の損切りについて、詳しく解説します。
株式投資の場合の損切りタイミング
株式投資は、FXや暗号資産に比べると、ボラティリティ(値動きの幅)が比較的少ないことが特徴です。
株式投資の場合は複数の要素をもとにして損切りを判断することが大切です。
ファンダメンタルズの悪化で損切りする
株式投資では、ファンダメンタルズの悪化が損切りの重要なサインとなります。具体的には、以下のような場合に損切りを検討します。
- 業績が下方修正された
- ビジネスモデルが崩れた
- 競争優位性が低下した
企業の将来性に曇りが生じた場合は、情報を収集し、改めて投資対象にすべきかどうかを検討することが大切です。
テクニカル指標によって損切りする場合
テクニカル指標を使った損切りも、客観的なルールに従って判断できるため、よく使われている手法です。
具体的な分析指標としては、以下が挙げられます。
- 移動平均線
- サポートライン・レジスタンスライン
- ボリンジャーバンド
- MACD(マックディー)
- RSI(相対力指数)
このようなテクニカル指標を用いた損切りの判断目安は、以下のとおりです。
テクニカル指標 |
損切りの目安 |
移動平均線 |
50日線や200日線を下回ったとき |
サポート・レジスタンスライン |
サポートラインを明確に下抜けたとき レジスタンスラインを越えられず反落したとき |
ボリンジャーバンド |
下側のバンドを大きく割り込んで終値をつけたとき |
MACD |
MACDラインがシグナルラインを下抜けたとき |
RSI |
RSIが30を大きく下回り、なおかつ回復の兆しがないとき 高値圏(70以上)から急落し、明らかにトレンド変換が見られるとき |
あらかじめ自分に合ったルールを決めて、それに基づいて損切りを検討すると良いでしょう。
資産全体の1~2%の損失で損切りする場合
損失率を目安にする場合は、自分に合ったルールを事前に設定しますが、どれくらいの損失率にするかは、個人それぞれのリスク許容度によります。
一般的に広く知られているのが「1~2%ルール」と呼ばれるものです。これは、「1回の取引で失っても良い金額は、総資金の1~2%以内に抑えるべき」という考え方によるものです。
例えば、運用資金が100万円の場合は1回の損失で許容できる額は1~2万円、運用資金が50万円の場合は、5,000円~1万円を基準として、これ以上の損失が出る場合は損切りします。
個別銘柄やポジションごとに損切りする場合
また、個別銘柄はポジションごとに判断する場合は、購入価格に対して5~10%の損失率で損切りするという目安も一般的です。
リスク許容度が高く、含み損にも耐えられる人は、10%ほどで問題ありません。
一方で、投資初心者で、少しの含み損でもストレスがたまってしまうという人は、損切りする損失率のラインを5%ほどにすると良いでしょう。
ただし、これらの設定は投資対象の値動きの幅(ボラティリティ)や市場環境によっても調整する必要があります。
ボラティリティが高い銘柄の場合は、もう少し高い損失率を設定することもあります。
FXや暗号資産の場合の損切りタイミング
FXや暗号資産投資は、株式投資に比べてボラティリティ(値動きの幅)が大きいため、より厳格に損切りルールを設定する必要があります。
ここでは、FXや暗号資産における損切りのタイミングについて、5つの手法を紹介します。
固定幅(固定pips・固定%)で損切りする
FXや暗号資産取引において、初心者でも簡単で使いやすいのが「固定幅」で損切りを決める方法です。
例えば、
- FXであればエントリー価格から―30pipsで損切りする
- ビットコインの場合は、エントリー価格から―2%で損切りする
というように、あらかじめ損切りの数値を決めておき、設定ラインまで来たら強制的に損切りをします。
ただし、FXや暗号資産は値動きが大きいため、損切りラインを浅くしすぎると、通常の値動きに巻き込まれて、無駄な損切りが発生することがあります。
例えば、FXでは1日に50~100pips動くことも珍しくありません。この時に30pipsというストップ注文を入れていたら、以下のようなことが起こりえます。
- たまたま短期的な価格の揺れに巻き込まれて損切り
- 損切り後に価格が上昇し、得られるはずだった利益が得られなくなる
また、価格変動が大きい日が続くと、損切りが頻発してしまい、損失が積み上がるという悪循環に陥ることもあります。
逆に、ボラティリティが小さい時に大きな損失幅(例えば100pipsなど)を設定していると、想定以上に大きな損失が出たり、本来もっと早く撤退できた場面で無駄に損失を大きくしてしまうこともあります。
このように、ボラティリティに応じた固定幅を設定しないと「大きな損失・小さな利益」という状況に陥りやすいため、注意しましょう。
サポートラインやレジスタンスライン割れで損切りする場合
チャート上で意識されるサポートラインやレジスタンスラインを基準にして、損切りラインを設定する方法もあります。
サポートラインとは、過去に何度も下げ止まった価格帯のことを言います。価格が下落してきても、過去にそのラインで止まったということで買い注文が集まり、反発しやすいポイントになります。
一方、レジスタンスラインとは、過去に何度も跳ね返されて、上昇が抑えられたラインのことをいいます。価格が上昇しても、レジスタンスライン付近では売り注文が出やすく、反落しやすいポイントです。
レジスタンスラインは天井、サポートラインは防波堤のような役割を果たしているといえます。
サポートライン割れを基準に損切りすると、以下のようなメリットがあります。
- 相場の転換点を基準にした、合理的な損切りができる
- 感情ではなくチャートの形に基づいた損切りができる
- 大きなトレンド変化が起こる前にポジションを手放せる
一方で、デメリットとしては以下が挙げられます。
- ラインの引き方が曖昧だと判断を誤ることがある
- レンジ相場の場合は、ラインを割ったすぐ後に価格が戻る「だまし」に合いやすい
- ボラティリティが大きい場面だと、ラインを軽く割った後に大きく反発することがある
どこをサポートライン・レジスタンスラインとして見るのかは人それぞれ異なります。チャート上にラインを引くときは、過去に何度も意識された水準を重視するようにしましょう。
ニュースやファンダメンタルの悪化ですぐに損切りする
FXや暗号資産はボラティリティが比較的大きいため、ニュースやファンダメンタルズの変化があると、すぐに価格に反映するという特徴があります。
以下のような事象が起こった場合は、即座に損切りする判断をすることも大切です。
- 米雇用統計やFOMC・COIなどの指標発表直後に、想定外の方向に動いた場合
- 暗号資産で大型の規制やハッキングのニュース等が出た場合
FXやビットコインはニュースに反応しやすいため、情報収集も継続的に行うようにしましょう。
損切りタイミングについてよくある質問
損切りのタイミングだけでなく、そもそも損切りすべきかどうか迷うケースもあるでしょう。ここでは損切りについてのよくある質問を紹介します。
損切りせずに保有し続けても良いですか?
基本的に、損切りせずに保有しつづけることは大きなリスクが伴います。
一時的な下落であれば、将来的な反発を待つという選択肢もあります。
しかし、企業の業績や経済環境、政治方針の変化など、根本的な理由が原因で株価が下落している場合は、株価がもとに戻らないこともあります。
根拠がない希望的観測で、損切りせずに保有し続けるのはリスクが高いといえるでしょう。
損切りが多く利益が出ない場合はどうすれば良いですか?
損切りが多くなってしまう原因としては、「エントリーの精度が甘い」「損切り幅が狭すぎる」といった原因が考えられます。
なんとなくエントリーをしてしまうと、通常の価格変動でも簡単に損切りルールにひっかかってしまい、結果として損切りが頻発する可能性があります。
「レジスタンスラインで売る」「サポートラインで買う」など、根拠がある水準でエントリーすることで、損切りを減らすことが可能です。
また、ボラティリティ(値動きの幅)に応じた適切な損切り幅を設定することも大切です。
「根拠があるエントリー」と「適切な損切り幅」を組み合わせることで、損切りが減り、利益が残りやすくなります。
長期投資でも損切りは必要ですか?
長期投資の場合は、ファンダメンタルズに以下のような変化が生じた場合、損切りを検討する必要があります。
- 投資先企業のビジネスモデルが崩壊した
- 業績が大幅に悪化した
- 産業構造や社会情勢の変化で成長が見込めなくなった
「長期投資=放置」ではありません。
重要な変化が起こった場合は柔軟に対応し、場合によっては損切りを検討するようにしましょう。
【まとめ】損切りのタイミングは感情ではなく「ルール」で判断しよう
損切りは、投資において資産を守るための重要なスキルです。
損切りのコツは、株式やFX、暗号資産などそれぞれのボラティリティ(値動きの幅)に合わせた損切りルールを設定することです。
損切りのタイミングを正しく見極めることができれば、損失を最小限に抑えて、次のチャンスに向けて資金を生かすことができます。
損切りでは、自分ならではのルールを明確にし、感情に左右されることなく実行するようにしましょう。
伊藤久実
伊藤FP事務所代表。ファイナンシャルプランナー(AFP)兼ライター。
大学卒業後、証券会社・保険コンサルタントを経て事務所代表兼フリーライターとして活動を始める。家計の見直しから税金・保険・資産運用まで、人生の役に立つ記事を幅広く執筆している。