利下げすると株価はどうなる?
債券との関係や米国が利下げしたときの影響まで徹底解説
金利は株価に影響を与える要素のひとつです。その中でも、「利下げ」は株価にどのような影響があるのか気になる人も多いのではないでしょうか。そもそもなぜ利下げを行うのか、生活にはどのような影響があるのか、債券への影響など、知っておきたい基本的な内容をご紹介していきます。また米国が利下げしたときの日本への影響や、利下げ局面で取るべき基本戦略についても解説していくので、日米の金利動向が気になる人はぜひ参考にしてみてください。
・目次
利下げとは
利下げとは、中央銀行が政策金利を引き下げる金融政策のことです。日本では日本銀行(日銀)がその役割を担い、政策金利は「民間銀行が日銀からお金を借りる際の金利の目安」となります。
政策金利は短期金利の指標となるため、金融市場全体に波及し、住宅ローンや企業融資などさまざまな金利に影響を及ぼします。
利下げを行う理由
利下げは金融緩和政策の一つで、不景気や景気の減速局面で景気を下支えするために行われます。金利を下げることで資金調達がしやすくなり、企業の投資や個人の消費を促す効果があるからです。
日本では長らくこの金融緩和が行われており、低金利の時代が続いていましたが、2024年3月にマイナス金利政策を解除し、政策金利を引き上げました。
<日本の政策金利の推移と景気後退期の比較>
出典:株式マーケットデータ
上記の表を確認すると、景気が後退したタイミングで金利が下がっているのがわかります。こうした金融政策の変化は、景気の方向転換を示すシグナルとして注目されています。
利下げによる生活への影響
金利が下がると、私たちの生活にも次のような変化が起こります。
- 銀行からお金を借りやすくなる
- 住宅ローンや自動車ローンなどの金利も下がる
- 預金の利息は少なくなる
低金利でお金を借りられるため、企業においては設備や人材育成、新しい事業などに向けて資金を調達しやすくなります。投資を行えば業績アップにもつながり、従業員に利益が還元されるかもしれません。
また個人に目を向けても、住宅ローンや自動車ローンの金利が下がり、利息の負担が軽くなります。手元にお金が残りやすくなり、そのぶん消費に回す人も増えるでしょう。新たにローンを組んで、不動産や自動車などを購入する人も増加すると考えられます。
つまり金利が低くなると、企業活動が活発化し個人消費も増え、市場にお金が流通しやすくなります。こうして景気が回復していけば、雇用の拡大などにもつながり、さらなる好循環を期待できるでしょう。不景気のときに金利を下げるのは、このような効果を期待しているためです。
ただし、金利が低くなるということは、預金したときの利息は期待できません。そのため、株式や投資信託などの市場が活発化する傾向にあります。
利上げとの違いについて
一方、金利を上げる利上げの場合は、どのような目的と影響があるのでしょうか。利上げの場合は、行き過ぎた景気やインフレを抑えるために、金融を引き締める目的で行われます。お金を借りにくくすることで、消費行動や投資を抑える金融政策です。
金利が上がれば、企業は設備投資や雇用の拡大を控える傾向が強まります。また個人においても、住宅ローン等の負担が増えた結果、消費を抑える人が増えるでしょう。一方で、金利が改善されるため、預金や国債といった安全資産に資金が流れるようになります。
金利と株価について、さらに基本的な内容を確認したい場合は、以下の記事も参考にしてみてください。
利下げをすると株価はどうなる?
金利は、株価に影響を与える要素のひとつです。利下げの場合は株価にどのような影響を与えるのか解説していきます。
基本的に株価は上昇する
金利と株価は、基本的に逆相関の関係だといわれています。つまり、利下げされると株価は上がるということです。
利下げで資金を調達しやすくなれば、設備や人材、新たな事業に投資が可能になり、業績アップにつながる傾向が強くなります。業績が改善されれば、投資家からの人気が高くなり、株価が上昇するというわけです。
また利息をあまり期待できない預金よりも、株式市場にお金が流れるため、全体的に株価が上がりやすくなるといわれています。
株価下落につながるケースも
ただし、利下げが必ずしも株高につながるわけではありません。不景気の中で行われた利下げは、「景気悪化のサイン」と受け止められ、株価が下落することもあります。
市場において利下げが「景気改善の兆し」として投資家に判断されれば、株価の上昇が期待できますが、そうでない場合は、良くない兆候として下落の要因になるのです。また、すでに利下げを予想されていた場合は、実際に発表されても株価があまり動かないこともあります。
このように、株価は景気動向や投資家の心理状態にも左右されるため、必ずしもセオリー通りに変動するわけではありません。
暴落することはある?
特に予想外の利下げが行われた場合、株価が急落することも考えられます。
たとえば、2008年に発生したリーマンショックのとき、各国は利下げ政策を取り、改善を図りました。当初は景気の回復と期待され、株価は改善の兆しを見せましたが、本格的な景気の悪化が明らかになると、株価は急落しています。その後、市場が回復するまでには数年を要しました。
利下げが債券や為替に与える影響について
利下げは株価だけでなく、債券や為替にも影響を与えます。
債券価格は上昇する
金利が下がると、債券の利回りは低下します。すると、既存の債券の方がより利回りが高くなるため、価格が上昇します。つまり新規で発行される国債ではなく、市場で取引される既存の債券価格が上がるということです。
利回りが高い債券は希少になるため、安全資産を求める資産家に人気がでます。利下げ前に保有しておき、利下げ後に売却できれば、キャピタルゲインを得られる可能性もあるでしょう。
為替は各国の金利差に影響される
各国の金利差は、為替に大きな影響を与える要因のひとつです。基本的にお金は、金利が低いほうから高いほうへ流れます。その方が多くの利益を得られるからです。
例えば、長らく低金利を続けてきた日本と、経済成長に支えられて高金利が続いている米国では、大きな金利差があります。
出典:株式マーケットデータ
このように日米では大きな金利差があるため、米国で資産運用をした方がより多くの利益を得られると考える人が増えます。その結果、日米の金利差が大きくなればなるほど、円よりもドルの需要が高まり、円安ドル高が進行するというわけです。
ここ数年は特に日米の金利差が大きく、円安ドル高の傾向が強かったのですが、2025年現在では少し変化も見られてきています。
日銀は2024年3月に金融緩和を解除することを発表し、利上げの方向に向く可能性を示唆しています。一方米国では、政策金利の据え置きや利下げが行われたことから、日米の金利差は縮小し、円高ドル安の傾向も見られるようになってきました。日米の金利の動きは、今後も注視が必要です。
米国の利下げは日本経済にどう影響するのか
各国の金利は互いの国に影響を及ぼしますが、特に米国の金利は日本経済にも大きな影響力があります。そこで、米国が本格的に利下げに動いたとき、どのような影響があるのかご紹介していきます。
FRBが利下げすると米国株は上昇傾向
FRBとは米国の中央銀行に当たる、連邦準備制度理事会のことです。FRBが金融政策の意思決定を行うために開催するのが「FOMC」という会合で、利下げや利上げの方針が決められます。
米国においても、基本的に利下げをすると株価は上昇し、利上げをすると株価は下落する傾向があります。これは日本も米国も変わりません。
FRBは、加熱しすぎた景気を抑制するために、2022年3月から2023年7月末のFOMCまで利上げの金融政策を続けてきました。その後据え置き期間を経たのち、2024年9月には利下げを行っています。2025年に入った後は政策金利が4.25~4.50%で据え置かれていましたが、9月に再び4.00~4.25%に引き下げられました。
この利下げの発表直後、ニューヨーク市場のダウ平均株価は一時的に最高値を記録するなど、大きな反応が現れています。
そのほか、過去に行ったFRBの利下げ時には株価が上昇する動きが見られることが多かったものの、下落したことも珍しくありません。このことからも、利下げが必ずしも株価の上昇につながるわけではないことがわかります。
日本の株価への影響とは
日米の株価は連動する傾向があります。米国の株価が上がれば日本の株価も上がり、米国が下がれば日本も下がるといった動きです。
先日の2025年9月のFRBの利下げ時には、日経平均株価も一時4万5,000円台を回復するなど、上昇の動きを見せました。過去のFRBの利下げ時にも、上昇傾向・下落傾向ともに米国株価と同様の動きを見せています。
為替はどう動く?
米国が利下げを行った場合、日米の金利差は縮まります。金利差が縮小すれば、ドル売りが進み円高ドル安の傾向が強くなるということは、すでにご紹介した通りです。
<日米実質金利差とドル円の推移>
出典:株式マーケットデータ
上記から、基本的に金利差が大きくなったときは円安ドル高に、差が縮まったときは円高ドル安の傾向があることがわかります。
物価への影響
米国の利下げで為替に変化があると、輸入時のコストにも大きく影響します。そしてそれは物価に反映されることになります。
たとえば円安の場合は輸入コストが高くつくため、物価は上がりやすいです。一方、円高になれば輸入コストは抑えられるため、物価の安定につながる場合もあります。
ただし、米国の利下げがどの程度為替に影響を及ぼすかはわかりません。また、そのほかの要因により、必ずしも物価が安くなるわけではないので、あくまでも可能性の一つとして考えておきましょう。
【過去の事例】FRB利下げ後の日米株価の動き
実際に過去FRBが利下げを行ったとき、日米の株価がどう動いたのか見てみましょう。
日米の株価は同じ動きをする傾向
過去にFRBが利下げをおこなったときを見てみると、米国株価は上昇する傾向が多く見られましたが、下落する局面もありました。
出典:株式マーケットデータ
たとえば、上記のデータから以下の利下げ時の状況を掘り下げてみましょう。
<各指標の約半年後の上昇・下落率>
|
S&P500 |
日経平均株価 |
1989年6月 |
約11.1%上昇 △ |
約18.1%上昇 △ |
1995年7月 |
約13.2%上昇 △ |
約24.8%上昇 △ |
1998年10月 |
約21.5%上昇 △ |
約23.1%上昇 △ |
2001年1月 |
約11.3%下落 ▼ |
約14.4%下落 ▼ |
2007年9月 |
約9.1%下落 ▼ |
約25.4%下落 ▼ |
2020年4月 |
約10.2%上昇 △ |
約12.1%上昇 △ |
※上昇率は参照データをもとに筆者が概算したものです。
FRBが利下げをしたときから、約半年後(5~6か月後)のS&P500と日経平均株価を調べてみたところ、上記のような結果となりました。
6回中4回が上昇し、2回下落しています。しかし、上昇・下落ともに日米の株価の動きは同じです。
利下げをしても株価は上昇せず、下落することもありますが、日米の株価は同じような動きをすることがわかります。
景気の動向がカギに
利下げを行って株価が上昇するか下落するか、鍵を握るのは景気の動向です。上記の結果と景気動向を照らし合わせてみると、利下げをしても株価が下落したときは、景気後退期間が訪れています。
つまり利下げをして景気の改善が見られるようであれば株価は上昇し、改善が見られない、もしくは悪化の兆候が見られるときには下落する傾向にあると考えられます。2008年のリーマンショックが起こったときには、すでに利下げの局面でした。このとき、さらなる利下げを行っても景気は反応せず、株価の回復には時間を要しています。
利下げによって株価がどう変動するかは、その後の景気動向にも大きく影響されるといえるでしょう。
米国が利下げのときにやるべきことは?
米国の利下げは、日米の株価に大きな影響を与えます。そこで、利下げのタイミングで投資家はどのような対応をとるべきか、基本の考え方をご紹介していきます。
投資戦略を見直す
利下げ時に限らず、金利が動く局面では投資戦略を見直してみることをおすすめします。ただし焦って視野が狭くならないよう、長期的な視線を持つことが大切です。
まずは利下げしたからと言って、必ずしも株価が上がるわけではありません。なぜ利下げが行われるのか、その背景やそのときの景気動向なども考慮する必要があります。
また、株式のセクターも意識しなければなりません。たとえば利下げの局面では、住宅ローンの金利なども下がるため、不動産業界は業績アップの可能性があります。そのほか、利下げで恩恵を受けやすいセクターをまとめてみました。
<利下げの恩恵を期待できるセクター>
●不動産セクター
住宅ローン金利が下がれば、住宅需要が増える傾向にあります。不動産販売や開発だけでなく、商業不動産の借入コストが下がることで投資が活発化し、不動産業界全体が好調になる可能性があります。
●公益事業セクター
安定したキャッシュフローを持つ公益事業は、利下げの局面では高配当株としての魅力が大きくなり、高く評価されがちです。景気にも左右されにくく、低金利時でも安定して比較的高いリターンを期待できます。
●消費財セクター
利下げで景気の回復が見られる場合、個人の消費も増える傾向にあります。そのため、消費者向けの製品やサービスを提供する業界、たとえば自動車や家電製品、アパレル、レジャー、ホテル、飲食業界などは恩恵を受けるかもしれません。ローン金利の影響を受ける自動車や、家電製品のセクターは特に影響が大きくなる傾向にあります。
●グロース株
将来の成長が期待されるグロース株も、低金利時には注目が集まります。積極的に投資を行い、業績をアップできる可能性が高いからです。テクノロジー企業やスタートアップ企業などの株式をチェックしてみるとよいかもしれません。
●債券ETFなど
利下げが行われると、新規の債券の金利が下がるため、既存債券の人気が高まります。そのため、債券ETFの価格が上がる可能性があります。リスクを抑えつつ安定したリターンを期待できるため、安定志向の人には特におすすめです。
一方、利下げ時に注意が必要なセクターもあります。
<利下げ時に注意が必要なセクター>
●金融セクター
銀行は貸出金利と預金金利の金利差が収益となるため、低金利時には収益が下がる恐れがあります。収益が下がれば株価も下がる傾向にあるため、注意が必要です。消費者金融やクレジットカード会社も、利下げによって収益性が下がる恐れがあります。
●保険セクター
利下げすると、運用資産の利回りが悪化する可能性があるため、保険セクターも注意が必要です。高い利回りを期待できなくなれば、保険商品の価格設定にも大きな影響があります。
投資戦略やポートフォリオを定期的に見直すことは、安定した投資を行ううえで重要です。長期的な視野を持ちながら、分散投資を心掛け、できるだけリスクを下げましょう。
為替の動きと外貨建て資産に注目
米国が利下げを行うと、日米の金利差は縮小します。すでにご紹介している通り、日米の金利差は為替の動向に大きく影響するため、為替動向にも注意が必要です。
日米の金利差が縮小すると円高ドル安の傾向になるため、外貨、特に米ドル建ての資産を保有している人は注意しましょう。たとえ外貨建て資産の金利が高くても、為替の影響で評価損になることも考えられます。
為替の変動リスクを極力抑えるよう設計された「為替ヘッジありETF」を検討してみてもよいかもしれません。
また、米ドル建ての保険を保有している場合も、為替動向の影響を受けるでしょう。円安ドル高のときには高い金利の恩恵をうけつつ為替差益を得られる可能性がありますが、円高ドル安の場合は、為替差損が発生する可能性もあります。外貨建て保険にも、為替リスクがあることを認識しておきましょう。
景気動向も確認を
前述している通り、利下げによる株価の変動は景気動向にも大きく左右されます。単に金利の変動だけに着目するのではなく、景気動向を見守ることが大切です。
日米の株価は連動する動きを見せますが、どれくらい影響があるかは市場を観察しなければわかりません。日本の経済状況や政治動向、金利差などによっても影響の大小は変化します。金利の動向だけにとらわれず、マーケット全体の動きを確認するようにしましょう。
まとめ
一般的に、利下げをすると株価は上昇する傾向にあります。お金が市場に回ることにより、企業の業績アップや個人消費を後押しし、景気も回復する期待が持てるからです。
ただし、株価は金利だけでなくさまざまな要因で変動するため、必ずしも上昇するわけではなく、下落する恐れもあります。金利だけでなく、景気動向などそのほかの要因も考慮することが大切です。
また、米国の金利は日本の経済にも大きな影響があります。金利差が大きくなれば円安に、金利差が縮小すれば円高になりやすいです。このような為替変動は、輸入や輸出を行っている企業の業績だけでなく、物価や外貨建て資産にも大きく関わってきます。また、米国の株価は日本の株価と連動する傾向にあることからも、米国金利の重要性が理解できます。
日米ともに金利の動きが活発化している今、今後はどのように動くか注視しておくとよいでしょう。
